岡山市に住むシングルマザー同士の同性カップル。「家族」として悩みや楽しみを分かち合い、障害のある子どもを育てる2人を取材しました。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「信頼できる人の頭の匂いをかぐというくせがあって、誰にでもやるわけではないんですけど、本当に親しい人にだけやるんです」
菅原颯人さん、13歳。最重度の知的障害と自閉症、多動があり、言葉を話すことはできません。
1年ほど前に母の香里さんと福島県から移住し、香里さんの同性パートナー、大和美菜子さんと一緒に岡山市で暮らしています。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「(Q.ごきげんな感じですか?)そうですね、かなり……」
トランポリンがお気に入りだという颯人さん。テンションが高い時にはずっと飛び続けているそうで、その運動神経はなかなかのもの。
大和さんもチャレンジしてみますが……。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「ものすごいソファーがへこんでた」
そんな日常の様子を、2人はSNSで発信しています。(インスタグラム @lgbtq_yamato)多いものでは1200万回以上再生されている動画も。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「SNSが普及してきて、みんなそんな隠さなくてもいいかなって。颯人を見てびっくりする人が多いですけど、(障害のある人が)社会に出てきて知ってもらうきっかけになったらいいのではないか」
(香里さんの同性パートナー/大和美菜子さん)
「『普通に生きていたらこんなこと起こる?』みたいなことが起こる、実際。でもそれがおもしろいと思って」
食べ盛りの颯人さん。幼い頃は偏食で、ふりかけごはんだけを食べていたそうですが、今は好き嫌いも少なくなりました。
(香里さんの同性パートナー/大和美菜子さん)
「おいしいね。こぼれちゃう、こぼれちゃう」
香里さんと大和さんはシングルマザー同士の同性カップル。出会いのきっかけは「障害児の子育て」です。
(香里さんの同性パートナー/大和美菜子さん)
「私の子どもも障害を持っているので、同じような障害児を育てるママ友がほしいと思って、(SNSを)見ている時に颯人君が出てきて、『めっちゃうちの子に動きがそっくり』と思って、友達になりたいなと連絡したのがきっかけ」
大和さんの子どもは今、特別支援学校の寮で生活しています。颯人さんは日中、特別支援学校と放課後デイサービスに通い、夕方に帰宅。
菅原さん「また自傷始まったって」
大和さん「え~、せっかく治まっていたのに?」
日によって心や体の状態に波がある颯人さん。この日はしばらく治まっていた「自傷行為」が再発していました。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「これは自分でかきむしったり、腕をバンバンってぶつけたり頭突きがひどかったり……。今は顔とか耳の周りをえぐってしまいます。止められないですね、今もまだ」
他にも髪の毛を抜いてしまったり、食べ物以外の物を何でも食べたりするなどの行動がみられる颯人さん。こうした行動を繰り返し、日常生活に影響が出る状態は「強度行動障害」と呼ばれています。
いつもニコニコしている颯人さんですが、自傷防止のヘッドギアを嫌がり、イライラしているようでした。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「(強度行動障害の要因は)はっきり分からない。ストレスかも知れないし、刺激が欲しくて『自己刺激』でやっている場合もある」
お風呂やトイレなど、日常生活に介助を必要とする颯人さん。
(香里さんの同性パートナー/大和美菜子さん)
「1回出た瞬間に鍵を閉めないとまた飛び込むから。『全部ふきました』っていった時に開けて飛び込むから」
さらに、服やオムツをすぐに脱いでしまう颯人さんに対抗しようと考案したアイテムが……。
(香里さんの同性パートナー/大和美菜子さん)
「トレーナーの後ろを切ってチャックを開けて着させる」
トレーナーとズボンを縫い付けて脱ぎにくくした手作りの「つなぎ」です。
大和さん「1人だったら悪さして片付けとかも落ち込んだり、『またか……』と疲れたりすると思うけど、2人でできるから。悲しんだらやらなくなるのかというとそうでもないから、それだったら……」
菅原さん「楽しく生きた方がいい」
休みの日に3人で訪れたのは、岡山市にある「かんかくもーる」。障害がある人も安全に楽しめる屋内施設でリラックスして過ごせる部屋もあります。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「いなくなっちゃうんです、柵がないと道路に出てしまう。出て行かないようになっていて遊べる場所は少ないので貴重」
自閉症の特性でこだわりが強く、思い通りにならない時には泣いたり暴れたりを繰り返していた颯人さん。成長とともに相手の言葉を理解して柔軟に動けるようになってきました。
(颯人さんの母/菅原香里さん)
「自立と言っても1人では暮らせないのでたくさんの人の手を借りて生きることになると思うけど、できるだけ自分で自分のことをやって自分で自分の楽しみを見つけられるように努力しています」
そんな颯人さんが今、トランポリンと同じぐらい夢中になっている「楽しみ」が音楽を聞くこと。約1年かけてタッチパネルが使えるようになったそうです。
家族で試行錯誤するうちに、「カラオケ」という共通の楽しみも見つかりました。
大和さん「女性2人で、最重度の障害の子どもが2人いて、イレギュラーな家族だと思うけど本人たちが楽しければ」
菅原さん「一緒にいたい人が家族だと思っているので」
大和さん「いろいろあるだろうけど笑いに変え続けられるような明るい家族でいたいと思います」