老いや認知症をテーマに岡山を拠点に活動をする劇団が6月、岡山市で公演します。5月、99歳になった劇団の看板俳優、岡田忠雄さんは2年ぶりの舞台出演を目指します。
岡山市のサービス付き高齢者住宅に暮らす、岡田忠雄さん、99歳です。
菅原直樹さん。岡田さんと共に演劇活動をする劇作家、演出家です。
6月14日から2日間、岡山芸術創造劇場ハレノワの小劇場で公演します。
劇団OiBokkeShiは老いなどをテーマに活動しています。菅原さんは劇団の活動などが認められ、「岡山芸術文化賞」のグランプリなど演劇に関わる数々の賞を受賞。2014年に劇団を旗揚げして以来、岡田さんと共に演劇作品を作ってきました。
(劇団OiBokkeShi/菅原直樹さん)
「この1年で環境は変わったり、身体面でできないことって増えてきているんですよね。なので、演劇をとてもしづらい状況になっているんですけれども。でも、岡田さんの演劇に懸ける思いというのは、どんどんどんどん高まってきている」
介護がきっかけで舞台に
岡田さんが本格的に演劇を始めたのは88歳の時でした。
当時、岡田さんは認知症の妻・郁子さんを介護していました。ヘルパーなどの手を借りながら自宅で10年以上ご飯の用意や洗濯など身の回りの世話をしていました。
それでも、食事を投げ捨てられたり罵声を浴びせられたり、理不尽な妻の言動に岡田さんの当時の日記には「殺してやろうか」。この介護生活を救ったのが菅原さんでした。
当時、介護福祉士として介護施設で働いていた菅原さんが伝えたこと。
(劇団OiBokkeShi/菅原直樹さん)
「認知症の人の気持ちを尊重する関わり方は、ぼけを受け入れる演技なんじゃないか。ぼけを正さずに演技で受け入れること」
岡田さん「いくちゃんは今なんぼかな?」
郁さん「なに? 私? まだ20なんぼと思うよ」
岡田さん「はははー驚いたね。わしは忘れたんよ、自分の年を」
郁子さんのおかしな言動も「演じること」で受け入れ、コミュニケーションが増えました。壊れかけていた2人の関係はもう一度、笑い合えるものに。
この妻との演技がきっかけで、岡田さんは劇団で看板俳優として舞台に立つようになったのです。
(劇団OiBokkeShi/岡田忠雄さん)
「命ですよ。心臓ですよ。舞台が命だと思ってます」
自身が脳梗塞で入院しようとも、新型コロナ禍で演劇が危機にさらされても舞台に立ち、そして、妻の介護も続けました。
しかし、2023年のことでした。郁子さんは永い眠りにつきました。
(劇団OiBokkeShi/岡田忠雄さん)
「信じられない。もう頭が真っ白。本当いうたら、寂しさとあれで泣くんだけど、その気持ちもない。ただもう真っ白だった」
妻との関係を支え続けた「演技」
郁子さんと一緒に暮らすことはもうできなくなりました。さらに翌年、自身も胆管炎で入院。2024年10月、高齢者住宅に入り自宅で暮らすこともできなくなりました。
老いて砂のように消えていく、これまで当たり前にできていたこと。それでも岡田さんに残ったものがあります。
(劇団OiBokkeShi/岡田忠雄さん)
「舞台は出たい。いや下手なのに。資格はないんよ、おれに。新作に向けて僕は台本書きますので」
それから半年。岡田さんの稽古がいよいよ始まりました。
2年ぶりの舞台へ。稽古となると、力が入り車いすから立ち上がることも。妻との関係を支え続けた「演技」だけは今もできるのです。
99歳の誕生祝い
(劇団のメンバー)
「HAPPY BIRTHDAYおかじい」
劇団のメンバーが岡田さんの99歳を祝福しました。
老いて、できないことが増えたからこそ見えた、最後に何があっても守りたいもの。
(劇団OiBokkeShi/岡田忠雄さん)
「指名があれば命の限り俺はやる。だって役者に定年はないもの。今できる演技をやりたい」
OiBokkeShiの公演「恋はみずいろ」は6月14日と15日、岡山芸術創造劇場ハレノワで行われます。