岡山県倉敷市真備地区で暮らす夫婦が若くして亡くなった息子の形見として大切に保管してきたスポーツカー。西日本豪雨で水没し、一度は手放しましたが、思いが人をつなぎ6年ぶりに両親の元へ帰ってきました。
(山本富美枝さん[81])
「うそみたい……。帰ってきたんや。本当に帰ってきたんや。もう皆さんありがとうございます。晃司やな。やっぱり。うわぁ、きれい」
(山本晃さん[82])
「いやぁ、素晴らしい」
(山本富美枝さん)
「こんないい姿になって帰ってきました」
山本晃司さん。中古で買った愛車「フェアレディZ(S130型)」を友人といじるのが好きで、成人式にも乗っていったといいます。しかし、1997年、交通事故により23歳の若さで亡くなりました。
それ以来、父・晃さんと母・富美枝さんにとって「Z」は息子の形見でした。
(山本富美枝さん)
「これが晃司の代わりやから、晃司はここの家が好きで最後はここに戻ってきたんだから、置いてあげようやというので、ずっと置いていた。晃司がおったら車磨くよなって言ったら、お父さんがせっせと車磨いて、ワックスかけて」
(山本晃さん)
「ほこり付かないように洗ったり拭いたりして、ふた閉めてと」
(山本富美枝さん)
「それが日課だったね」
そんな中、2018年の西日本豪雨で、山本さんが住む倉敷市の真備地区は甚大な被害を受けました。自宅とともに「Z」も水没し、泥にまみれました。
その翌年、復興ボランティアで訪れた自動車整備士を目指す学生との出会いをきっかけに、山本さん夫婦は「教材にしてほしい」と「Z」を京都にある日産自動車大学校に提供しました。
そして2021年、学校で復活プロジェクトが始動します。
(プロジェクトを主導/井上恵太 先生)
「山本さんの思いで、お預かりした車なので、学生さんの勉強になるようにしないとダメだなと思ったので、元の形に戻していくという形で活動を始めようと。完全に水没している車なので、一つ一つ部品を洗浄して、分解して、点検して、という形で、少しずつ進めて」
3期にわたる学生の有志60人ほどが放課後に作業を進めました。そして、プロジェクト開始から約3年半が経過した2025年2月、ついにエンジンがかかったのです。
(エンジンを担当/長谷川雄治さん)
「エンジンがブルブルと掛かって、その時はめちゃくちゃうれしかった。僕らが学校で、これを触れなくなるのはちょっと寂しい部分はあるんですけど、その代わりにご夫婦が喜んでいただけるというのは、僕らとしては一番うれしいこと」
6月1日。「Z」ととともに晃司さんのお墓を学生が訪れました。墓前で一度エンジンをかけます。
(山本富美枝さん)
「うわぁ、すごい」
(山本晃さん)
「いやぁ、よかったよかった」
そして、自宅へ。
(山本富美枝さん)
「お父さん、バンザイやね。バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
最後に鍵が手渡されました。
父・晃さんがエンジンをかけます。
母・富美枝さんは涙をこらえきれませんでした。
(山本富美枝さん)
「本当に晃司が帰ってきたんじゃないかと錯覚してしまって……。皆さんありがとうね。本当にありがとうございます」
(エンジンを担当/長谷川雄治さん)
「今までいい経験をいっぱいさせていただきました。これにて完成ということで」
(山本富美枝さん)
「晃司が何人もおるような感じで。晃司もイケメンだったけど、皆さんもすっごいイケメンよ。素晴らしい顔してはる」
(山本富美枝さん)
「Zイコール晃司ですからね。でも本当に晃司がよみがえって、帰ってくるんじゃないかしら。今夜ぐらい帰ってくるんじゃないかしらっていうくらいの錯覚を覚えましたね。さっきは本当に。感動しました。(Q.これからも可愛がっていく?)それはもちろんです。お父さんおらんようになっても、Zだけは絶対手放したくないですから(笑)」
(山本晃さん)
「困った(笑)」