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戦後80年)防衛の最前線「国境の島」高まる台湾有事の危機 島民「攻撃対象に」

政治

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戦後80年の今、台湾有事に備えて、九州・沖縄の防衛体制を強化する“南西シフト”が急速に進む中、注目されているのが台湾に一番近い島、「与那国島」です。有事の際、最前線となる「国境の島」を取材してきましたが、現地を見て初めて知ることがありました。

■50人の命救った「ガマ」洞窟の内部は

(有働由美子)「緑が…自然の緑が鬱蒼としているところ。あ、これか。うわー、ぱっかりこう、岩と岩の間が、中が洞穴みたいになっていますね。ちょっと先が見えないですけど…これ入れるんですよね、人が入っていたんですもんね、失礼します。真っ暗だ、なんか土の匂いがする。」 ここは「ガマ」と呼ばれる自然の洞窟です。太平洋戦争中、アメリカ軍機がやってくると、島の人たちはこの場所に逃げ込みました。 (有働由美子)「ここがすごい、ぬかるんでいる。ここ上はすごい、鍾乳洞みたいになんかこう垂れてきている。ポタポタ水滴が落ちていますね。」 奥行きは15mほど、多い時はここに50人ほどが避難したと言います。 (有働由美子)「なんかざわざわ動くのは…これは虫ですか?」 「虫ですね。」 (有働由美子)「この湿気と土の下、中の感じ、どんな感じだったんですかね、ここに50人の人がいるっていうのは。」 太平洋戦争末期、与那国島への空襲は激しくなり、このガマがある集落も大半が焼け落ちました。ガマの管理をしてきた糸数さんです。 (ガマを管理 糸数普敏さん(63))「このガマでも爆音が耳鳴りのように、ボンボン。空襲で焼けていって、でも命はこっちで避難した人はみんな助かったよっていう。」 (有働由美子)「ここに1時間でもいるのちょっと怖いって思うようなところでしたけど、実際にここに避難するということって…」 (糸数普敏さん)「次のことを考えて、自分の命助かるんだったら活用はします。」 人口約1700人。この小さな島で、戦後80年の今、あらためてガマの場所を確認する島民が増えていると言います。それは“台湾有事”を心配してのことです。

中国が台湾への軍事的な圧力を強める中、与那国島では、2016年に陸上自衛隊の駐屯地が開設。防衛力の強化が進められ、島の中央には、沿岸監視隊の巨大なレーダーも設置されました。 (有働由美子)「あの高い、丸い白いものが付いている下に突起のようなものが出ているんですが、それがこう360度いろんな方向に向かって出ているんですよね。細かいスペックについては自衛隊がそこは秘密ということで、今はっきり分からないんですけど、ただ24時間体制でこの辺りの船舶、それから航空機を監視し続けているということなんですよね。」

■「領海」の端へ 中国ミサイルに漁師不安

与那国島から台湾までは、わずか110km。気象条件が良ければ、台湾の姿を肉眼で見ることもできます。 (有働由美子)「ちょうど今あそこの切り立った崖、ここが与那国島の西、つまり日本の一番西の端なんですよね、ここから台湾まで110kmなので、見える日には台湾がここからも見えるそうなんですよね。ちょっと今日は見えていないですね。」 私たちは漁師の小針さんの船で、台湾方面へ向かいました。海上を走ること、1時間半。 (漁師 小針幸太郎さん(62))「ここが日本の領海と日本のEEZ(排他的経済水域)の境目です。」 (有働由美子)「日本の領海と日本のEEZ、ちょうど境目に今私たちいるということですね。」 EEZは、他の国に邪魔されずに、漁業や天然資源の開発ができる海域です。 しかし、3年前、漁師や島民を不安に陥れる事態が―。 中国軍が台湾を取り囲むように行った軍事演習で、弾道ミサイル5発が日本のEEZ内に落下しました。まさにその日、小針さんも漁に出ていました。 (漁師 小針幸太郎さん)「いきなりミサイル撃たれて、それがEEZの中、自分らが漁をしていい水域の中に落ちたなんていうとやっぱ嫌ですよ。またいつそんなのがあるか分からないし、安心して漁はできないですね。」

■“南西シフト”が加速 島民「攻撃対象に」

台湾有事を念頭に、日本政府は、自衛隊の「南西シフト」を加速。 先月には、佐賀駐屯地に「オスプレイ」が。今月7日には、宮崎県の新田原基地に、最新鋭のステルス戦闘機「F35B」が配備されました。さらに与那国島では、今ある駐屯地の隣に、弾道ミサイルも迎撃できる地対空ミサイルの部隊が追加配備される計画です。 防衛省は「島を守るための装備で、反撃能力にはならない」と説明していますが、島民からは不安の声が聞こえてきました。 (与那国島の住民)「ミサイル部隊が来ることによって、より与那国の島っていうことが攻撃の対象になるだろうっていう確率が高まる不安もありますし、なし崩し的に、いいようにされているなっていう感じがしていますね。」

■「与那国島に米軍」高まる戦場リスク

台湾有事が起きたら、与那国島はどうなってしまうのか。 (有働由美子)「与那国島にある自衛隊施設が狙われる可能性は?」 (戦略国際問題研究所(CSIS) マーク・カンシアン上級顧問)「紛争が起きた際には、島の部隊が標的になる可能性は高い。」 有力シンクタンクの上級顧問で、アメリカ軍にも強い影響力を持つ、カンシアン氏。 2023年の台湾有事のシミュレーションでは、中国の台湾侵攻は多くの場合で失敗した一方、アメリカと日本も多数の艦艇や航空機を失いました。 (マーク・カンシアン上級顧問)「沖縄南部のすべての島が重要だが、台湾に最も近い与那国島は特に重要だ。」 (有働由美子)「与那国島は非常に重要だと言いましたが、与那国島に米軍が展開するんですか?」 (マーク・カンシアン上級顧問)「はい。米軍、特に海兵隊は対艦ミサイル部隊を編成してきた。これらの部隊を現在駐留している沖縄本島から、南の島々に移動させるのが最も効果的だろう。」

与那国島が戦場となるリスクが高まっている背景には、アメリカ軍の戦略の変化もあります。2023年11月、沖縄に「海兵沿岸連隊」という新部隊が発足。 その任務は、与那国島のような離島に小規模な部隊を分散することで、敵のふところ近くに入り込み、地対艦ミサイルなどで戦うという新たなものです。 (マーク・カンシアン上級顧問)「台湾をめぐり米中の間で紛争が起これば、米軍が駐留する場所はどこでも中国の攻撃の標的になり得る。これらの島々はミサイル攻撃の応酬に巻き込まれる可能性がある。」 (有働由美子)「(台湾有事が)もし起きたら、何が重要になる?」 (マーク・カンシアン上級顧問)「できる限り、紛争前に避難をすること。これが最も安全な方法だ。紛争が起きたら、その場に留まり、動き回らないことだ。動き回ることが最も危険だ。洞窟(ガマ)をシェルターとして使うのは、戦闘が激しくなった時には良い考えだと思う。」

■全島避難は可能?地下シェルター計画も

日本政府の避難計画では、予測される武力攻撃の前に、全島民約1700人を、航空機を使って、1日で島の外に避難させることになっています。この計画について町は―。 (有働由美子)「一番心配していらっしゃることは?いざという時に。」 (与那国町 防災担当 洲鎌浩二さん)「高齢者で、避難に要配慮者というんですか、介護認定を受けている方。今1日で(全島避難)と言っているんですけど、中々難しい場面が出てくると思うんですよ。その時になって」 島には万が一に備えた施設もできます。 (洲鎌浩二さん)「こちらが新庁舎の建設予定地で、地下に通称シェルターができる。」 2028年春をめどに完成する“地下シェルター”。収容人数は約200人で、避難できなかった島民などが2週間ほど過ごせるようキッチンやランドリー、シャワー室も設置する予定です (有働由美子)「全島民1700名いますけれども?」 (洲鎌浩二さん)「ここしかないので。」 (有働由美子)「島民は避難をすることが前提?」 (洲鎌浩二さん)「そうです。基本的には全島民が(島外に)避難するわけなんですけど。」

■「避難は地元を失うこと」揺れる島民

ただ島を離れる決断は簡単なものではありません。 (上間畜産 上間睦太代表(28))「こういう感じで自由に育てられるっていうのが、この島のいいところだったりするのかな。」 黒毛和牛の繁殖を手掛ける上間さん。 (有働由美子)「避難の計画とかありますけど、それって現実的にどう思われますか。」 (上間睦太代表)「無理じゃないですか。僕でも約100頭くらいの牛がいるわけで、ご飯もあげなきゃいけない、また水も飲まさなきゃいけないという、この子たちはどうするのかという問題も出てくるし…」 アンケート調査では、島外への避難指示が出た場合、「避難を希望する」人は45%だったのに対し、「希望しない」人は47%とわずかに上回りました。 (上間睦太代表)「避難するということは、僕は地元を失うということだと思っているので。多分、避難して帰ってこられるかどうかもわからない。みんな、これだけ離れている島だから、あまり関心もないかもしれないけども、自分事ととらえた時に、自分の地元がって考えたときに、どう思うか。」

■「ガマ使って欲しくない」89歳の願い

再び、避難を強いられるのか。与那国島の人々によみがえるのは80年前の記憶です。 (ガマに避難 大朝ハツ子さん(89))「はい、いいです。」 (有働由美子)「今は何をお祈りされたんですか?」 (大朝ハツ子さん)「ここで命拾いしたんですけど、二度と入らん、来てないんですよ、私は。」 ガマに逃げ込み、命をつないだ大朝さん。 (大朝ハツ子さん)「飛行機の音して、それで女の人たちが庭に出て、友軍の飛行機だ。万歳、万歳って言って、そして私もすぐ後ろ見てすぐ弾をぱっぱら、ぱっぱらって音がしたもんだから、もう振り向かないですよ、一回向いただけで、もうすぐここに逃げて入ったんですよ。」 (有働由美子)「この辺りは空襲で焼けたんですか?」 (大朝ハツ子さん)「みんなですよ」 大朝さんは、自分と同じような経験を誰にもしてほしくないと考えています。 (大朝ハツ子さん)「ガマを使ってほしくないです。戦だけはやってほしくないですよ、みんな同じですよね、人間の気持ちは。嫌な人も、悪い人も、心悪い人も、いい人もいるかもしれないですけど、みんながいいように一生を生きて、生きられるまで生きていくのが人間じゃないですか、そう思いますよ。本当に毎日心して祈っています、これしか私の仕事はないです。」

8月10日『有働Times』より

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