政府はコメ政策をめぐり、増産の出口として、輸出の抜本的拡大を目指す方針を示しました。実際に、コメの輸出拡大は実現できるのでしょうか。可能性と課題を探りました。(8月16日OA「サタデーステーション」)
■新米の販売スタート 価格は高止まり
お盆のなか、稲刈りに追われていたのは、千葉のコメ農家。新米の収穫が始まっていました。
コメ農家「沼南ファーム」 橋本英介さん 「しっかり穂がついているので、収穫量も多いと思います」
報告・神宮桃子ディレクター 「こちらの店頭には今日から今年の新米が並べられました。注目の価格は税込で4298円です」
関東の早場米の産地として知られる千葉県。コメ不足の解消に期待がかかりますが…
スーパーの買い物客 「願わくば(税込みで)3000円台で収まってもらいたいですけど、これから(新米の流通)量が増えたら、もう少し下がってくるのかなって期待しています」
おっ母さん食品館 柏の葉キャンパス店 侭田由美店長 「(Q今年の新米価格について)猛暑だからどうなのか。品質もあるし。問屋さんは(値段が)下がることは無いかなと言っていました」
全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は、5キロあたり税込みで3542円と、2週ぶりに値下がりしましたが、高止まりは続いています。
小泉農水大臣(5日) 「増産にかじを切る政策へ移行していきます。増産の出口として、輸出の抜本的拡大をはかります」
先週、一転してコメ不足を認めた政府は、「増産」と、価格の暴落を防ぐために「輸出を拡大する」方針を打ち出しました。
■高級路線には需要も…価格競争力に課題
実際に、輸出の拡大は可能なのでしょうか。アメリカ・ロサンゼルスを取材しました。
報告・力石大輔記者 「ロサンゼルス近郊にある、日本米にもこだわっているお寿司屋さんです。連日、地元の方で予約満杯になっているということです」
地元の客 「寿司のコメの食感がとてもよかった」
店で出すコメもネタも、ほとんどが日本産です。日本食のブームを追い風に、日本のコメの輸出は、アメリカや香港などを中心に、この5年でおよそ2.6倍に伸びています。政府は、2030年の輸出量を、2024年のおよそ8倍に増やす目標を掲げています。
くら元 倉元大樹オーナー 「日本の魚を多く使っているので、カリフォルニアのお米と日本のお米を比べると、相性が日本の方がいい。食べても全然違う」
人気は68ドル、日本円で1万円ほどのランチコース。北海道産のコメに、愛媛産のマダイやシマアジなどが使われています。
くら元 倉元大樹オーナー 「日本のものにこだわったものを出すようなお店が増えていけば、広まって行くと思います」。
一方で…。
報告・力石大輔記者 「ロサンゼルスで人気のおにぎり店です。よく出るのはですね、牛肉のそぼろ、そして唐揚げ。いくらも出るそうなんですが、こちらはですね、 値段なんと1700円から1800円だそうです」
日本産のコメにこだわる、ロサンゼルスのおにぎり店。販売するおにぎりの値段は、ほとんどが日本円でおよそ1000円。
ONIGIRI SUN 村田悟社長 「(Qこれはどこのお米なんですか?)これは、茨城のお米なんですよ。おいしいってよく言われてます」
お客さんの評判も良いようですが、日本産米は、価格競争力の面で課題があると言います。
ONIGIRI SUN 村田悟 社長 「お米の価格がかなり上がってくるんではないかと言われているので、この後どうしようかなと。やっぱり価格が非常に重要なところ」
■トランプ関税が直撃 販路拡大の難しさも
そして、輸出といえば避けて通れないのが、あの問題です。
報告・仁科健吾アナウンサー 「こちらの卸売農家では、仕入れた米を12の国や地域に輸出しています。しかし、輸出をめぐる環境は厳しくなってきているといいます」
米どころ新潟で、コメの卸売り、輸出も手掛ける「エコ・ライス新潟」の豊永さん。アメリカ向けが7割を占めていたと言いますが。
エコ・ライス新潟 豊永有社長 「これからトランプ関税どうなるかわからないので、ちょっと様子見をしています。今年はもうアメリカは輸出する予定はないです」
倉庫には…。
エコ・ライス新潟 豊永有社長 「これはアメリカに輸出する予定でした。150俵ぐらいですね。価格でいうと200万円弱ぐらいです」
アメリカへ輸出予定だったコメは全て、フランスやUAE、南アフリカ、オランダ、モルディブなどへ輸出することになりました。政府が掲げる「輸出の拡大」については。
エコ・ライス新潟 豊永有社長 「(輸出事業が安定するまで)5年はかかったと思います。結局やり方がわからなかったんですね。国によって規制も全然違うので」
それだけではありません。
エコ・ライス新潟 豊永有社長 「輸送費がめちゃめちゃ大きくて。輸送費って平気で3倍4倍上がったりするんですね。そこらへんに手を打ってもらわないと、輸出なんか絶対伸びないと思います」
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高島彩キャスター 「コメの輸出には様々な課題もあるようですが、実際、海外での需要はどうなんでしょうか」
板倉朋希アナウンサー 「海外需要の開拓や輸出拡大を進める全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会の細田浩之専務理事によると『“余ったから売る“のではなく、海外市場のニーズを受けて“美味しいから売る“という考え方が重要』だと言います」 「また、『現在世界には100カ国以上に約20万店の日本食レストランがあるが、“なんちゃって日本食“も多く、日本産のコメや関連食品の潜在需要は、まだまだある』ということでした」
高島彩キャスター 「実際には、売れているんでしょうか?」
板倉朋希アナウンサー 「海外での販路拡大イベントでは成果も上げていて、2024年度はアメリカやフランスで2億円規模、UAEでも1億円規模の商談が成約。またシンガポールではチャーハンに合うコメや、焚き方など具体的な使い方を提案し、継続契約に結びつけています。一方で細田さんは、『競合国との競争を勝ちぬくには、生産コストを下げて価格を抑えられるかが課題』という指摘をしています」
高島彩キャスター 「柳澤さん、まだまだ課題はありそうですね」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏 「国内の需給がひっ迫する中、海外への輸出を巡る問題で課題があると言わざるをえないんですよね。輸出用のコメがもし余ったら国内に転用できるか?というと、政府の補助金が出ている輸出用には国内に回してはいけないという制度上問題があるということなんですよね。さらに国内で増産するといっても、生産農家にしてみるとお金がかかるわけですよね。今後、『もし政府が方針を転換したら、はしごを外されかねない』など、そういう気持ちに対して、政府が不信感を取り除き信頼を獲得するという努力も必要になってくると思いますね」
高島彩キャスター 「『しっかり保証しますよ』など、そういった一歩踏み出す後押しが必要になってくるかもしれませんね。日本の米が“おいしいから選ばれる“存在になるためには、まだまだ改善の余地がありそうです」