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「境界線を溶かすチョコレート」でカカオビジネスに革命を! 岡山県出身の大学生の挑戦

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 日本に輸入されているカカオは、約80%がガーナ産です。ガーナでカカオを生産する農家の大半は収入が少なく、十分な医療や教育を受けることができません。そうした状況を打破しようと、岡山県出身の女性がカカオビジネスに革命を起こそうとしています。

 百貨店でバレンタインチョコレートの売り場に立っているのは、岡山県出身の大学生、田口愛さん(23)です。自らが立ち上げた会社「エンプレーソ」のチョコレートを販売しています。彼女が生み出した新しいカカオビジネスの一つの柱になる商品です。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「岡山出身でこんな方がいたんだと話してくださったりして、そうした方々に『私も岡山出身です』と話が出来るのがすごくうれしいです」

 田口さんは今、アフリカのガーナでカカオビジネスに革命をもたらそうとしています。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「カカオの可能性を広げるっていうことなんですけれども。簡単にいうと、カカオ豆の品質を上げる。そして、その価値を保存したまま日本のショコラティエさんや商社さんにつなげる」

 田口さんがそんな目標を掲げるにようになったのは、チョコレート好きが高じて大学1年生の時にガーナを訪れたことがきっかけです。そこで目の当たりにしたのは、カカオ農家にとってチョコレートは高価なため、口にすることは出来ないという厳しい現実でした。

 せめてチョコレートのおいしさを知ってもらいたいと思い、日本から持参した米粉用のミキサーでチョコレートを作り、みんなに振る舞ったそうです。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「すごく皆さん喜んでくださって、一番うれしかったのは『人生で食べた物の中で一番おいしい』と言ってもらったことなんですけれども、それが60歳ぐらいのおばあちゃんで、40年間ぐらいカカオ農家をやってきて、その中でやっと(カカオを)食べて感動して、自分の仕事にもさらに誇りを持ってという姿がすごくうれしいなと思いました」

 帰国後、カカオ農家の所得をどうすれば増やすことができるかを田口さんは考え始めました。そして気づいたのが、ガーナ産カカオが市場で安く取引されていることでした。

 日々、カカオを扱っているショコラティエに話を聞いてみると……

(SUN CACAO ショコラティエ/加藤泰さん)
「(ガーナ産は)大体他のカカオの3分の2ぐらいの値段かなという感じですね。品質がまちまちだったりする部分はありますが、ガーナというチョコレートが有名であるくらい、食べ慣れた味ではあるかなと思います」

 ガーナ産のカカオが安いのは「品質にむらがあるため」です。カカオ農家の所得を増やすには品質の向上が不可欠だと考え、田口さんは他のカカオの産地の視察へ旅立ちました。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「インドネシア、台湾、タンザニアとかいろいろ回ったんですけれども、それぞれの国や地域では、直接ショコラティエさんが足を運んでその場で交渉しながら、農家と一緒にいい豆を作っているという場所を見られたりしたので、ショコラティエさんが求める基準はどのぐらいかとか、農家さんにとってはそこに行くために何がハードルとなっているのか、そこをチェックするいい機会になりました」

 カカオの味の決め手は「発酵」にあります。田口さんは視察で学んだ発酵技術を生かし、ガーナの村の人たちと高い品質のカカオの生産を始めました。

 しかし、カカオの品質向上がすぐに農家の収入アップにつながったわけではありません。ガーナでは、「ココボード」と呼ばれるカカオを管理する政府の機関が、品質に関わらずカカオを一定額で買い上げることになっていたからです。

 この流れの中に田口さんが作った会社「エンプレーソ」が入れないかを政府と交渉しました。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「チョコレートへの愛を語ったりとか、作ったものを渡したりとか、肩書きがないからこそ、お金をいくら持ってきたんだとかそういった話にもならず、何者でもないからこそ聞けた話とか進められた話はあったのかなと思います」

 田口さんが考えた新しいビジネスモデルでは、まず、エンプレーソが良質なカカオをココボードよりも1.3倍から1.5倍ほど高く買い取ります。

 そのカカオは一旦ココボードに納めますが、他のカカオと混ざらないようにラベルを付けて管理してもらい、価値を保ったまま日本に輸入します。そして、その他のガーナ産のカカオよりも高く販売し、プラスアルファで得られた利益を農家に還元します。

 ガーナでは「ココボード」以外がカカオを買い取ることを禁止しています。しかし、田口さんはエンプレーソが買い取る方式を「実証実験」として政府の許可を取り付けました。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「みんなすごく喜んでましたね。より一層頑張ろうだったり、カカオ農家としてもう一回生きていこうとか、誇りを取り戻してくれたのがすごくうれしかったです」

 こうした取り組みが評価され、田口さんは2021年、ニューズウィーク日本版の「世界に貢献する日本人30」に選ばれるなど、さまざまなメディアで紹介されています。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「自分が(メディアに)出ることが恥ずかしいなとか思ってたりとか、世間の目にどう思われるんだろうとかいう時もあったんですけれども、一番はやっぱりガーナの現状を伝えていきたいと。もちろん想像よりもっと深刻な部分もあれば、貧しいだけじゃない豊かっていう側面もあって、それを知ることってすごく重要で。やっぱりこういったことって届けなきゃいけないなっていう使命感があって、私としてはしっかりと伝えていきたい」

 2022年のバレンタイン商戦では、東京、大阪、岡山などの百貨店に「エンプレーソ」が手掛ける「MAAHA(マーハ)」というブランドのチョコレートが並びました。

 複数の百貨店が田口さんの活動に賛同し、MAAHAのチョコレートを販売したいと申し出たのです。

(客は―)
「応援してます。岡山からそんな方が出たなんて、なんかうれしいわよ」

 田口さんは2022年4月にはガーナに戻り、チョコレート工場を稼働させる予定です。建設資金は、クラウドファンディングで募りました。ガーナ国内でカカオの6次産業化を実現出来れば、より多くの付加価値を現地に落とすことが出来ると考えています。

(エンプレーソ CEO/田口愛さん)
「私はガーナの人たちにすごく救われてきたと思っていて、何か焦燥(しょうそう)感に駆られていた自分に毎日身の回りにあることの幸せに着目することをガーナの人から教えてもらったおかげで、人生が彩り豊かに見えるようになった。そんな彼らが本当に大好きで恩返ししたいなって思う純粋な気持ちですね」

 チョコレート業界は消費者と生産者が分断されていると田口さんは感じています。MAAHAのキャッチコピーは「境界線を溶かすチョコレート」。境界線を溶かして、世界を変えていきます。

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