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【特集】自宅全壊、弟との別れ…西日本豪雨で被災した写真家 復興を見つめ思うことは 岡山

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 平成最悪の水害、西日本豪雨からまもなく4年です。岡山県真備町の写真家・尾合輝政さんは82歳の時に被災し、自宅を失いました。

 尾合さんは被災してから約2年半、仮設住宅で暮らしました。その間、一緒に住んでいた弟を亡くし、新型コロナの感染拡大で外出も減り、病気やけがで入退院を繰り返しました。

 真備の復興を見つめる86歳の写真家が今思うことは――。

 2021年1月。娘と買い物をするのは倉敷市真備町出身の尾合輝政さん(当時84)。2018年の西日本豪雨で被災して3年が過ぎ、食べ物の好みも変わったといいます。

娘・真理子さん「口の中に傷ができたりして」
尾合輝政さん「今までばりばり食ようたのが全部これ(ダメ)。360度変わった、食べるもんが」

西日本豪雨でほとんどの写真を失った

 尾合さんは50代で写真家として独立し、高梁川や小田川とその周りの花などの写真を撮り続けていましたが、西日本豪雨で自宅が全壊、数千枚あった写真のほとんどを失いました。

 2020年2月、仮設住宅で一緒に暮らしていた弟・康正さんが亡くなってからは、心臓や肺などの持病に加え新型コロナウイルスの感染拡大で外出の機会も減り、写真を撮ることも少なくなりました。

 そして2021年7月、倒れた尾合さんは腰の骨を折り、入院しました。

 作業療法士の高橋涼さんがリハビリの一環として写真撮影を取り入れてくれました。

 約3カ月で退院することになった尾合さん。倉敷市真備町に建てられた災害公営住宅に戻ってきました。家に着くなり、まず最初に触ったのはカメラです。

尾合さん「写真はここのリハビリ、頭の。あれだけ写真撮るとものすごく気を遣うよな」
高橋さん「時刻表見てから撮りに行ったりとか」
尾合さん「人間の顔が変わるんじゃ、人間の顔が変わると言ったらおかしいけど、本当に真剣になる」
高橋さん「目付きが全然違って。何時間でも電車一緒に待ったりとか、カメラに対する思いとかも、そばで見ててもすごく分かりました。尾合さんらしい生活ができたらいいかなと思います」
尾合さん「まあ、これからの宿題だな」

「見てくれた人の力に…」小さな写真展が完成

 高橋さんから引き継いだ訪問看護の松尾静羽さん。尾合さんと一緒にこれまで撮った写真を部屋の壁に飾りました。2人で写真を選んで、1枚1枚飾っていきます。そして小さな写真展が完成しました。

(尾合輝政さん)
「この水害のあれでも、これ見てくれて気が楽になって、気休めになって、復興に力が入れられるようになれば。見てくれた人の力になってほしいと、そういうふうに思っている」

弟・康正さんの死因は「災害関連死」には該当せず

 2022年3月、倉敷市から被災後に仮設住宅で亡くなった弟の康正さんが、「災害関連死」に該当するかどうかの審査結果が届きました。通知によると康正さんの死因、急性心筋梗塞と災害との間に因果関係があるとは確認できないということでした。

 康正さんに持病はなく、病気がちな尾合さんをサポートしていたそうです。

(尾合輝政さん)
「被災を受けて精神的なショックから、(弟は)あの時点で病院、医者にもかかってなかったからな。生きとるのが悪いような気がして。夜中に目が覚めていろんなことを考えてしまう」

 尾合さんは飼っていた猫2匹を豪雨で亡くしています。この日は、いないはずの猫のえさが部屋の隅に置かれていました。

(尾合輝政さん)
「やっぱり猫ちゃんいるだけでだいぶ違うで。癒やされる。こうやって寝てたら足の上へ来て気持ちいいなって。捕まえようと思って捕まえられん。あれが夢じゃろうな、現実じゃったら捕まえとるはず」

尾合輝政さんが語る「最高の写真」とは――

 2022年4月。娘の真理子さんが尾合さんを誘い、小田川沿いの公園を訪れました。お目当ては八重桜です。

(尾合輝政さん[86])
「もうちょっと広がった写真の方が良い、光の具合もできたら半逆光くらいで撮った方が」

「静かな温和な、優しい川に見える。それが水害を起こさせた。考えられん。忘れるって完全には忘れられないよ。4年間早すぎた」

 4年前、濁流となり多くの命を奪った川。それでもいつかその自然に心癒やされる、そんな日が来ると信じ、尾合さんはカメラを構えます。

(尾合輝政さん[86])
「(写真は)真心じゃ。嘘も隠しもねえ、真実をそのまま伝える。(川の)変化というか、流れを写していって、それを見てもらって皆さんの心を癒やしてもらえれば最高の写真だと思うんです」

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