難病・ALSの男性の体験をモチーフにした絵本が6月、出版されました。絵本に込められたのは男性が3人の子どもたちにどうしても伝えたかったこと。体が動かすことも声を出すこともできなくなった男性が伝えたかったことは?
7月20日、香川県観音寺市の小学校にある絵本が贈られました。
(豊浜小学校/河内直人 校長)
「『フィーロくんのいと』という絵本について紹介します。校長先生もこの絵本を見せてもらいましたが、初めて見たとき心が震えるほど感動しました」
「フィーロくんのいと」。森の仲間と暮らすライオンのフィーロくんがある日、突然体が動かなくなってしまう物語。
この絵本の主人公・フィーロくんのモチーフとなったのが合田朝輝さん(35)です。
(合田朝輝さん)
「僕はALSという病気で体が動きません。ALSとは筋肉が弱くなっていく病気です」
ALS・筋萎縮性側索硬化症は体を動かすための命令が脳から筋肉に届かなくなり、体のあらゆる筋肉が衰える難病です。
合田さんは今、ほとんど体は動かず、手足がわずかに動くほど。自身をモチーフにした絵本を子どもたちに贈ったのには、ある思いがありました。
絵本の作画を担当したデニー・ホリミズさん。この日、製本会社から送られてきた絵本のテスト印刷を合田さんに持ってきました。
これまでパソコンの画面上で見ていましたが、印刷されたものを見たのは2人とも初めて。デニーさんは、合田さんの友人に誘われて絵本制作に参加しました。
(豊浜絵本制作隊/デニー・ホリミズさん)
「私は今、手が動かせたり、絵を描くっていうことをさせてもらっているから、なんかできるんじゃないかなと」
(合田朝輝さん)
「自分の子どもたちに自分の想いを残したくて。子どもたちは僕が動けていた頃のことを知らない。子どもたちに僕は何を残せるんだろう」
合田さんがALSの診断を受けたのは看護師として働いていた29歳の時。3人の子どもを育てながら観音寺市に自宅を建てた矢先のことでした。
(合田朝輝さん)
「その時は、『マジか。』みたいな。驚きの方が大きかったです。できるだけ考えなくてもいいようにしてました。それに子どもがまだ小さかったから日々が忙しかった」
その後、仕事をやめ自宅で過ごすように。
ALSは今のところ完全に治す方法はなく、進行すると自力で呼吸することもできなくなります。
(合田朝輝さん)
「だんだん、気を紛らわせるのも限界になってきたというか。まあ、考えんようにしよったけど、それが、とうとう目の前にきた。そこからどんどん精神的に落ち込んでいきました」
そして、2021年、合田さんは自身のブログにこう記しました。
(合田さんのブログより)
「人間と猿の違い」
・できないこと
歩けません。立てません。
起き上がったり寝返りもできません。
・やりたいのにできないこと
子どもを肩車する。絵本を読む。
愛する妻を抱きしめる。
問.私は人間でしょうか?
(絵本「フィーロくんのいと」より)
「いままでのぼくは どこかにいってしまったみたいだよ。いまのぼくは なにもできない。これまでのぼくは もうかえってこないのかな」
「ナウくんはなにかをいいたかったのですが こえにはならず ただ目からなみだがあふれてきました」
フィーロくんのもとを訪れ、打ちひしがれた友人のナウくん。
このナウくんのように合田さんの悲痛な問いかけに応えた友人がいました。飯間将博さんです。ブログを見た翌日に合田さんのもとに駆け付け、コンサルティングなどでの起業を勧めたのです。
(飯間将博さん)
「なんて言ったらいいんだろうかと思ったんですけど、ただ実際に人間って考えることもできるし、考えることができるのと感情があるっていうのが人間でしょうっていうので、そこで『仕事をしろ』と言いましたね」
森に雷が落ちて炎が燃え広がり森の仲間が危なくなった時、ナウくんはフィーロくんにこう言います。
(絵本「フィーロくんのいと」より)
「きみの力が必要なんだ! きみにはみんなをえがおにするアイデアやひらめきがいっぱいある!」
合田さんは仕事を始めることで変わりました。
(合田朝輝さん)
「諦めないんだと言い続けていると、僕を一人の人間として、対等な仕事仲間として、接してくれる人たちが増えてきました。それがどんなに嬉しかったことか。僕の体はだんだん動かなくなり、これから呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけることになります。だからこそ、今、僕は皆さんと、つながる心で生きています。つながりがあるから、僕は人間でいられます」
友人と支え合う。その糸のようなつながりで人間でいることができる。
(飯間将博さん)
「この人は強かったんだ、すごい人だったんだ、この人だからできたんだって思われるところあると思うんですけど、そういう人も実は、ものすごく辛くて、逃げたくて。ヒーローも実は裏では弱いし、泣いてるんだってところ、その中で戦ってるのと一人では戦ってないよというところですね」
今回の絵本のストーリーを手掛けたのも合田さんの友人の1人です。合田さんはあとがきにこう記しています。
(あとがき)
「この絵本は僕が子どもたちに伝えたい想いです。辛くても、悔しくても、諦めないで挑戦する強さと勇気を持ち続けてください。ALSの父親だから伝えられる物語」
合田さんが今、考える「生きる意味」とは……。
(合田朝輝さん)
「ALSになって、こんな体になって、それでも生きる意味ってなんだろうかって悩みながら生きています。それでも生きることでこうやって絵本を残せたり、誰かの生きる勇気になれている。それがあるから生きていられるんだと思います」