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【解説】吉備中央町のPFAS問題 住民の不安と今後の対応は 岡山

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 岡山県吉備中央町の浄水場から国の暫定目標値を超える有機フッ素化合物「PFAS」が検出され、町が全国で初めて「公費」で住民の血液検査を行いました。その結果、健康リスクに関する数値がアメリカの指針で示されているものより高かったことが分かり、住民からは不安の声があがっています。

 岡山県吉備中央町で夫と息子と3人で暮らしている住む阿部順子さん(43)。2011年に豊かな自然を求めて東京都から移住してきました。

(吉備中央町在住/阿部順子さん)
「発がん性のリスクが高くなるようなものが入っているとは、ちょっと想像していなかった」

 阿部さんが住む円城地区にある浄水場の水からは、2020年から3年間、国の暫定目標値の16倍以上のPFASが検出されました。

 PFASは「有機フッ素化合物」と呼ばれる化学物質の総称で、1万種類以上あると言われています。水や油をはじき、熱にも強いことから、フライパンや包装紙など幅広く使われてきました。

 しかし、環境や健康への影響を懸念する声が高まり、2009年以降、製造などの規制が国際的に進んでいます。

 国の食品安全委員会によると、海外の研究では「がん」や「流産・早産」など、さまざまな健康リスクとの関連性が指摘されています。

(京都大学大学院医学研究科/原田浩二 准教授)
「これまでの研究等から体の中では肝臓に影響し、そのことで血液中の脂質が変化し、生まれてくる子の発育等にも影響すると比較的言われている」

 町は、PFASの発生源について、2008年ごろから浄水場の上流に置かれていた活性炭だとみています。

 阿部さんは2014年ごろから3度の流産を経験しました。浄水場の水を飲み続けた結果ではないかと疑っています。

(円城浄水場の水を飲んだ住民/阿部順子さん)
「どちらも初期流産で2回続くと『あれ…1回目の妊娠出産と明らかに何か違うんじゃないか』という気はして。断定はもちろんできないが、流産した原因がPFASにあった可能性も否定できないと思う」

全国で初めて公費で血液検査…9割近くが基準値上回る

 町は、住民の健康への影響について調べるため希望者を対象に、全国で初めて公費で血液検査を行いました。そして、1月28日、709人分の結果を公表しました。

(吉備中央町/山本雅則 町長・1月28日)
「思った以上に高いなというのが率直な気持ちでございます」

 アメリカの学術機関の指針では、血液1mLの中に含まれる7種類のPFASの合計の量が20ngを超えると健康に影響するリスクが高まるとされています。

 吉備中央町によると、検査を受けた人の9割近くが20ngを上回っていました。町は、5年後に再び血液検査を行う方針です。

(吉備中央町/山本雅則 町長・1月28日)
「寄り添うことはやっていこうと思う。ただその(血中濃度の)数字そのもので、すぐ医者に掛かるように呼び掛けることは今時点で町としてはなかなかできないと考えている」

 阿部さんの数値は216.7ngでした。阿部さんは、自分たちの子どもや孫の世代も活用できるデータを取れるよう今後も調査を続けてほしいと訴えます。

吉備中央町在住/阿部順子さん)
「はたして水のせいだったのか…とかそういうふうなことが言える研究まで想定しているか、知らされていないので、気になっています。どれだけその後の人生に影響を与えるのか、私たちは誰も知らないと思うので。それに相応する研究があってしかるべき」

健康リスクへの評価が定まっていないPFAS

 さまざまな種類があるPFASのうち「PFOS」と「PFOA」の2つの物質についてはWHOの関連機関が発がん性を指摘しています。

 ただし、PFASについてはまだ分かっていないことも多く、日本では健康リスクへの評価は定まっていません。それでも国は、健康へのリスクを考慮して「PFOS」と「PFOA」の合計値を水道水1Lあたり50ng以下とする「暫定目標値」を2020年に設定しました。

 一方、アメリカでは2024年4月、水道水1Lあたりに含まれるPFOSとPFOAをそれぞれ4ng以下と日本より厳しい「規制値」が設定されました。

住民説明会を開くも…不安は解消されず

 吉備中央町は、2月16日に住民説明会を開き、血液検査の結果を報告。冒頭、住民から町への不満の声があがりました。

(吉備中央町の住民)
「3年間、飲まないでいい水を飲まされた。それは町の責任」

 説明会では、血液検査の分析を行った岡山大学の頼藤貴志教授が結果を報告しました。そして、体の中のPFASの量が半分になるまでに2~8年程度かかるとされていることなどを説明しました。

 2回の説明会に、合わせて約160人の住民が出席しましたが、不安が残った人も少なくないようです。

(4児の父)
「子どもたちの濃度が高く、10年、20年後に子どもが出産したときにその子どもに影響がないのかなど、その辺がいくら数値が出て何を聞いてもその不安は消えない」

(吉備中央町在住/阿部順子さん)
「私たちの希望をちゃんと聞いてそれができるのか・できないのか、話し合いの場をもっとつくってほしいと言ったが『持ち帰ります。検討します』と何も進んでいないように、希望がかなうのかどうか分からないと思った」

(吉備中央町/岡田清 副町長)
「(住民側から)新しい提案をいただいていてそれらを含めて住民の皆さんが1日でも早く安心ができるようにしていきたく、専門の皆さんと検討していろんなことを改革したい」

専門家「分析を進め対策を」

 専門家は、円城地区の住民が特定の病気になりやすいかどうかの分析を進め、対策をするべきだと主張します。

(京都大学大学院医学研究科/原田浩二 准教授)
「1人1人(の疾患)がPFASの影響かは結論づけにくいが、今後そういった影響が出てこないように早く治療できる取り組みが必要」

 高い濃度のPFASは全国で検出されています。京都大学大学院の原田准教授は、私たちにできることとして「まずは自治体が行っている水道水の検査結果を確認してほしい」と呼び掛けています。

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