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【解説】高校の授業料無償化…岡山での影響は 専門家「県北の人口減少につながる恐れ」

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 3月、「高校の授業料無償化」を盛り込んだ国の2025年度の予算が成立しました。無償化について国は、家庭の負担を軽減し教育の機会均等を図るためとしていますが、懸念の声も上がっています。岡山県での影響を探りました。

 3月、「高校の授業料無償化」を盛り込んだ国の2025年度の予算が成立しました。就学支援金の支給について所得制限が撤廃されます。詳しく見ていきます。

 これまでは、世帯年収が910万円未満の家庭に対し国から就学支援金として年間11万8800円が支給されていました。これは、公立高校の授業料に当たる金額です。
 そして、私立高校に通う家庭で世帯年収が590万円未満の場合は、さらに加算があり上限39万6000円が支給されます。

 2025年度から変わるのは910万円の所得制限がなくなる点で、公立の授業料を完全に無償化します。
 さらに、2026年度からは私立の加算分について590万円の所得制限をなくした上で支給上限額を私立の全国平均の授業料にあたる45万7000円に引き上げる予定です。

 岡山県での影響を探りました。

街の人は

(60代の男性)
「今、物価が高騰しているので、そういった面でも少しでも負担が軽くなればいいかなと思っていますね」

(小学5年生と2年生の父親)
「家庭的にはすごく助かります。(私立への)選択肢が増えることで子どもたちが行きたいところに行けるのだったら、それはそれでいいのかなと思いますけど」

(4歳の子どもの母親)
「子どもには公立を最初に選んでほしいと思いますけど、教科書代とか別にかかることが他にたくさんあるので、そういう意味でも無償化、うれしいですけど(私立は)難しいかなと」

私立高校は志望者増加を期待

 岡山市の私立高校、山陽学園です。進学コース、特別進学コースに加え音楽やダンスなどを学ぶMusicコースがあるのが特徴です。

(宮川周三リポート)
「こちらは、Musicコースの生徒たちが練習をする部屋です。こうした部屋がたくさん並んでいます。そして、一番奥のスタジオでは生徒たちがダンスの練習をしています」

 授業料は、年間42万円。無償化で志望者が増えることを期待しています。

(山陽学園高校/浅野貴行 副校長)
「注目されるということで、やはりチャンスにはなるかと思う。実際の教育の質を高めて安心してご入学いただいて本校から次の進路に羽ばたいていけるように信頼を得られるように頑張っていきたいと思っています」

岡山県知事「公立人気の急落が心配」

 私立にとってチャンスである一方、懸念されるのが「公立離れ」です。

 岡山県の伊原木知事は「子どもや保護者にとって選択肢が増えることは素晴らしい」としながらも「公立人気の急落を心配している」と述べました。

(岡山県/伊原木隆太 知事・3月19日)
「非常に大きな影響を高校教育に与えるのは間違いないと思います。無償化によってどちらかというと私立有利になっていく可能性が考えられる。そうなった場合、公立の学校の定員はどうなるんだろうか、特に岡山市・倉敷市以外の地域の定員はどうなるんだろうか、我々自身も心配をしているところ」

 3月に行われた岡山県立全日制50校の一般入試では、過去最多となる32校57科1コースで定員割れとなりました。

 高校の再編も進んでいます。真庭高校と笠岡工業は2023年度以降、1年生の生徒数が2年連続で100人を下回りました。岡山県教育委員会は、真庭を勝山と、笠岡工業を笠岡と笠岡商業と統合して新しい高校をつくる方針を示しています。

無償化の影響は「徐々に」

 学習塾の担当者は今後の見通しについてこう話します。

(能開センター岡山本部/今出晋平さん)
「今から15年後、だいぶ変わっていると思います」

 高校の授業料無償化は岡山県でどのような影響を与えるのか。学習塾の担当者は「生徒がすぐに私立に流れることはなさそうだ」としながらも影響は徐々に出てくるとみています。

(能開センター岡山本部/今出晋平さん)
「やっぱり公立人気がずっと続いてきているのでそれを経験した親世代ですから、おいそれといって私立にすぐ変わるかというとそうでもないだろうと。それでも私立高校の専願者(の増加)だったりとか私立高校が特色のあるコースを増やしてきているという現状はありますから。今の20代前半ぐらいのこの人たちが親になってきてくると大きく変わっているかもしれないとは思います」

 岡山県教委によると現在、岡山県の中学生が県内の全日制高校に進学する場合、進学先は公立が約7割、私立が約3割です。

 高校の無償化について岡山県私学協会では「私学への専願率が上がっている。家計支援が拡充されることを歓迎する」とコメントしています。

 一方、岡山県教委は「さらなる県立高校の特色化・魅力化に取り組んでいきたい」とコメントしています。

専門家「県北で人口減少の恐れ」

 岡山県では、県北と県南で私立高校の数が大きく違うこともポイントの一つです。現在、全日制の私立は24校ありそのほとんどが岡山市や倉敷市など県南に集中しています。

 専門家は、県北の生徒が県南の私立を受けやすくなる一方で、県北の地域の活力が低下する恐れがあると指摘します。

(岡山大学/中村良平 名誉教授)
「県北の生徒が県南の私立中学、高校を受験すると、県北の学力水準というのが県南に流れてしまうので平均値としては少し低下してくるということがありますね」

 地域経済や政策に詳しい岡山大学の中村良平名誉教授は、高校の授業料無償化が県北の人口減少につながるかもしれないと話します。

(岡山大学/中村良平 名誉教授)
「定員割れなんかを起こすと、当然偏差値が下がるわけですよね。そうすると、それによってもっと他の地域へ行った方がもっといい教育を受けられるんじゃないか(と考える)。相当考えて特徴のある高校をつくっていかないといけない」

 一つ、注意が必要なのは無償化になるのは授業料だけという点です。

 文部科学省が全日制の私立高校の入学初年度にかかる費用の全国平均をまとめています。それによりますと、2024年度は入学料が16万5898円、施設整備費などが15万7232円でした。

 生徒の個性や将来の目標、校風や費用面など、さまざまな点を踏まえて高校を選ぶことが大切だと感じます。

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