香川県出身の画家、猪熊弦一郎は、絵画の制作だけでなく、建築家やデザイナーとも交流して「アート県・香川」の礎を築きました。そんな猪熊の「交流」にスポットを当てた企画展が丸亀市で開かれています。
香川県出身の画家・猪熊弦一郎 建築家らとの交流は
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、通称・MIMOCA(ミモカ)が開いた「猪熊弦一郎博覧会」です。
猪熊は1936年、同世代の仲間と「新制作派協会」を設立。戦後、その協会に「建築部」を作り、画家や彫刻家、建築家との協働を盛んに行いました。
1949年、栗林公園内に開館した旧・高松市美術館は、猪熊の推薦で建築家、山口文象が設計しました。
そして、猪熊が旧制丸亀中学の後輩だった金子正則元知事に紹介したのが、建築家の丹下健三です。
丹下が設計した香川県庁舎(現在の東館)は、日本の伝統建築を鉄筋コンクリートで表現したもので、後に国の重要文化財に指定されました。
猪熊も、1階ロビーに陶板の壁画を手掛けました。
(記者リポート)
「企画展の会場には香川県庁舎の壁画の原案や、猪熊と丹下、金子知事らがやりとりした書簡の抜粋も展示されています」
(丹下健三から猪熊弦一郎宛て[1957年12月])
「この建築は今までどこにもなかったようなものだと思います」
(猪熊弦一郎から金子正則宛て[1958年6月])
「一ついいものが故郷に出来ますと、これからの建物が又次々に新らしく、いいものになっていく事は明らかな事です」
猪熊は世界的彫刻家のイサム・ノグチや流政之らとも交流し、香川と結びつける役割を果たしました。
猪熊の「集大成」 美術館の建物の見どころは
そして猪熊が亡くなる2年前、1991年に丸亀市に完成したのがMIMOCAです。
建築家、谷口吉生と対話を重ね、猪熊の「集大成」ともいえる美しい建築空間を実現しました。
企画展の初日には、建築史を専門とする東北大学大学院の五十嵐太郎教授と、画文家・編集者の宮沢洋さんの案内でMIMOCAの「建物の見どころ」を巡るツアーも行われました。
正面から見た外観、門のような形のフレームは猪熊が描いた壁画の「額縁」のようにも感じます。
建物の南側には2つのエレベーターが壁から筒状に突き出ています。そして、同じ面には……。
(東北大学大学院/五十嵐太郎 教授)
「丸柱があるんですけど、ちょうどガラス面に映ることによって1本の柱なんですけど、対のペアコラム(双柱)みたいになってる」
さらに……。
(記者リポート)
「入り口を入ってすぐのエリアはあえて天井を低く抑えています。ここを抜けると、一気に3階までの吹き抜けが広がり、より高さが意識できる設計となっています」
3階まで上がると光を取り入れる大きな水平の隙間、「スリット」から街の風景を見ることができます。
(画文家・編集者/宮沢洋さん)
「縦のスリットでちらちらっと外が見えるというのはまぁまぁやる手法なんですけど、こんなに横にガバッと外が見えるってここしかないと思う」
参加者は、普段は気づかない美術館の設計や構成の工夫を感じていました。
(ツアーに参加した人は―)
「また違った視点ですごく丁寧に部分を見ることができて、不思議を感じたりとても興味深かったです」
「中にいても外の環境とか時間を感じることができるっていう雰囲気っていうのがすごく素晴らしいと思いました」
(企画展のキュレーター/古野華奈子さん)
「建築については私自身が今まで思っていたより(猪熊は)ものすごく好きだったんだなというのが分かった。だから丹下さんのことを自信を持って知事に薦めることができたし、猪熊だからできたことなんだなと思ってもらえるかもしれない」
画家としての活動以外に猪熊弦一郎が残した足跡を知ることができるこの企画展は2025年7月6日まで開かれています。