老朽化のため香川県が解体を決めている旧県立体育館について、23日、建築家らで作る団体が建物と敷地を民間で買い取るなどしてホテルなどに再生する提案を発表しました。「公費を使わない再生」を目指した背景とは?
自己資金で改修 「収益施設」への再生を提案
(記者リポート)
「旧香川県立体育館を見下ろすことができるホテルの6階です。ここを会場に、これから記者会見が行われます」
会見を行ったのは、複数の企業のサポートを受けて設立した「旧香川県立体育館再生委員会」です。
世界的な建築家、丹下健三が設計し、1964年に完成した旧香川県立体育館。ケーブルで屋根をつるした、つり屋根構造で柱がない大空間を実現し、「船の体育館」の愛称で親しまれてきました。
しかし、耐震性に問題があるとして2014年に閉館し、県が約10億円かけて解体することを決めています。
再生委員会は、県から建物と敷地を買い取るか借りるなどして全額自己資金で耐震補強や改修を行う意向を表明。単に建物を保存するのではなく、文化的価値を残しながら「収益施設」への再生を目指します。
1階と2階部分をホテルに、3階の競技場部分にブックラウンジ・カフェやアートスペースを整備する案と、1棟丸々ホテルにする案の2つを提示し、どちらも年間約1億円から3億円の営業利益を見込めるとしています。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[高松市の建築家])
「ホテルとしてインバウンド(訪日外国人)とか旅行者を受け入れながら県民も利用できて、その両者が混ざり合うような交流施設になればなと僕は思ってます」
再生委員会は会見では具体名を明かしませんでしたが、事業参画や出資を検討している企業やファンドが複数あり、「初期投資の30億円から60億円の調達のめどは立っている」としました。
(旧香川県立体育館再生委員会/上杉昌史 副委員長[経営戦略コンサルタント])
「香川県の負担としては0円ということで、一切財政的な負担を負うことなく文化的建築の保存と地域経済の活性化を同時に達成できる」
それだけではなく、解体すれば約10億円かかるところ、今回の提案に応じれば、県には「売却益」のプラスが見込まれます。今回、再生委員会が重視したのがこの点です。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[高松市の建築家])
「税金の使い道という議論だとも思っています」
解体に10億円…保存活用に使えないのか
高松市の建築家、長田慶太さんが旧県立体育館の再生に向けて動き出すきっかけになったのは2024年6月、解体費の概算が10億円だと発表されたことでした。解体に10億円をかけるのであれば、それを保存活用のために使えないか? 長田さんは県教委や県議に改めて検討するよう働き掛けました。
(建築家/長田慶太 さん)
「ノスタルジーで『解体反対』と僕は言いよるわけではなくて、大事なものをちゃんともう一回(議論の)テーブルに……」
しかし2024年12月、県議会の一般質問で池田知事は……。
(香川県/池田豊人 知事)
「民間の事業者などから提案を求める機会を改めて設けることや、有識者などを交えた改めての検討を行うことは考えておりません」
(建築家/長田慶太さん)
「これが政治的にどういうことだったのかっていうのは帰って考えたいけど、もしかしたら行き止まりなのかなという気も少ししてます……」
税金の使い道の議論に…買い取り目指す
その後、長田さんは県内外の企業へのアプローチを始めました。
(建築家/長田慶太 さん)企業とのオンライン会議で
「再生に向けてやりませんかって、一緒に(県に)申し立ててくれる企業が見つかること。ぜひとも一緒に協力してほしいという、願いです」
2025年3月、解体工事費などを盛り込んだ新年度当初予算案を県議会が可決。これまでの保存運動が十分に広がらなかったことも踏まえ、長田さんたちは「買い取り」を目指す方針を固めました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[高松市の建築家])
「民意をきちんと一つの方向性をつけていくには、やっぱり税金の話、解体費に10億かかる、買い取る人が4億出すって言ってるという」
県は解体を進める方針…倒壊の危険は?
そして、サポート企業として、高松で創業し全国各地で商業施設や文化施設の企画や運営を行う「乃村工藝社」などが加わり、県教委に対し、協議を始めるよう申し入れました。
しかし、池田知事は「再生委員会の提案は今後さらに時間をかけた検討が必要だ」とした上で――。
(香川県/池田豊人 知事)
「地震の発生の可能性が高まる中で、できる限り早期に安全確保が重要で、それをしていかなきゃいけないわけですけども、その方法としては、今予定している解体以外には現時点ではないというふうに認識しております」
再生委員会の理事で、老朽化した建物を再生する独自の技術「リファイニング建築」で知られる青木茂さんに地震発生時の倒壊などの危険性について聞きました。
(旧香川県立体育館再生委員会/青木茂 理事)
「建物そのものがボコッと壊れることは僕はないと思ってます。液状化で傾くことはあるかもしれません。ほんの数cmから数十cm傾くなんてことは」
記者「(県と県教委から)少し検討の猶予を得てもいいんじゃないかと?」
(旧香川県立体育館再生委員会/青木茂 理事)
「思ってます。それが傾いて転倒(倒壊)するっていう根拠があればお示しいただければ。工学的なものであれば、それに対してお返しの工学的な見地は出せると思っています」
再生委員会は調査会社に委託して県民などを対象に解体への賛否などを問うアンケートを行うほか、27日からオンライン署名も始め、県教委に協議に応じるよう働き掛けます。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[高松市の建築家])
「県が抱えてた問題は、たぶんこの形で解決できることはいっぱいあると思うんでそれを含めて協議の場を設けてほしいなという要望ではありますし、そう願ってます」