メイクを通じて心をサポートする、「メイクセラピー」。これを医療現場に浸透させようと取り組む女性が岡山市にいます。
(菅野由起さん)
「東京や大阪ではメイクセラピストがどんどん活躍していて、すでにメイクセラピーが入っている病院もあります。岡山はまだまだなんですけど、こうやって少しずつメイクセラピーを知っていただいて、日々のQOL(人生の質)を上げる手段の1つにしていただけたらうれしいと思います」
岡山市の病院で事務職員として働く菅野由起さん。メイクを通じて心をサポートする「メイクセラピー」に興味を持ってもらおうと、岡山市を中心にセミナーを開いています。
この日は、実演を交えながらメイクが外見だけでなく内面にも変化をもたらすことを伝えました。
(参加者)
「お化粧する勉強します、86歳で……」
(菅野由起さん)
「眉を描いた自分を見てどうですか?」
(参加者)
「違う、はっきりするね。若くなろうと思いました。よかったです、心もこれから顔もきれいにしたいと思います」
自身が働く医療現場に「メイクセラピー」を浸透させようと民間の資格を取り、活動している菅野さん。そのきっかけとなったのが、がんの闘病でした。
(菅野由起さん)
「2021年に卵巣がんになったんです。(抗がん剤で)脱毛して顔色もくすんで元気がない自分を見て、余計に元気がなくなったり心まで病気になりかけた。何か自分がもっと元気に見せられるメイクってあるんじゃないかとか、初めは自分のために習ったのがメイクセラピー」
菅野さんはセミナー以外にも、実際にがんや認知症の患者にメイクセラピーを行い、成果が得られたことを学会で発表しました。
(菅野由起さん)
「明日からまた頑張ろうって思ったりとか、ちょっと外に出て散歩しようと思ったりとか、気持ちのスイッチを入れる手段の1つとしてメイクって力を持っている。それを医療現場に入れてサポートの1つとなれば」
そして今回、病院のイベントとして闘病を経験した人たちをモデルにした「メイクアップファッションショー」を開くことにしました。
モデルの1人太田さんは、足が悪くなってから家にこもりがちになり、乳がんの手術も経験しました。
(菅野由起さん)
「そんなの命と比べたらっていうじゃないですか。私ももちろんそう思うし。でもご自身にしてみたら乗り越えるのに力がいるでしょ?」
(太田さん)
「足が悪くて歩けなくなったことよりも、片方の胸がないというのが……何だろうと思って」
そんな中、娘からすすめられて、参加を決めたといいます。
(太田さん)
「下向いてじっとしていても始まらないし、ちょっとだけ上向いて」
かつて保育士として働いていたEさんは、5年前にヘルニアを患い、寝たきりの生活と過酷なリハビリを経験しました。
(Eさん)
「こちらの病院にお世話になっていて、いろんなスタッフのおかげでここまで回復できたので感謝を示せたらと思って」
他にも、「今までの自分を変えたい」という人も含めて5人のモデルが集まりました。
そして迎えた本番当日。菅野さんと美容師の経験がある看護師がモデルにメイクを施します。
(Nさん)
「どんな顔になるのかと今から楽しみ」
目の手術を受けてから、見た目の変化が気になり始めたというNさん。メイクが進むにつれて表情や言葉に変化が……
(Nさん)
「宝塚みたい……」
(スタッフ)
「そんなイメージにしました」
(Nさん)
「そうなんだ。今から宝塚には入れないから入った気持ちで……。今日は堂々と……歩きます」
そして、乳がんで闘病していた太田さんも……
(太田さん)
「人生の終末だから、79歳だからもう2度とないと思って……いいじゃない、亡くなる前に何かやったって」
(菅野由起さん)
「心が躍るというか、心が喜ぶというか、それがメイクセラピーの醍醐味だと思っているので、モデルさんがどんなふうに変化するのか。どんな表情になるのかを一緒に楽しみたい」
(Eさん)
「何でもできちゃいそう。(闘病中に)こういうタイミングがあったら心が折れそうな時に支えになったんじゃないかな」
たくさんの観客が見守る中、モデルが1人ずつランウェイへ。
(菅野由起さん)
「エネルギッシュなモデルさんの思いと、明るい笑顔のモデルさんに応援と盛大な拍手をお送りください」
思い入れのある衣装と華やかなメイクで3分間のショーを全力で楽しみます。
(菅野由起さん)
「まっすぐ立つこともできなかったため、きょうはきれいな立ち姿を見ていただきたいんです」
それぞれの思いで臨んだ晴れ舞台。メイクアップファッションショーは大成功をおさめました。
(菅野由起さん)
「とても美しいモデルさんに温かい拍手をお願いします」
(観客)
「すごいよかったです。メイクの力で皆さんキラキラでした素敵でした」
(Eさん)
「皆さんが『わ~、キレイ』と言ってくださるので、その声にも励まされてやる気に満ちて臨むことができました」
(太田さん)
「生きるというのはいいことだと涙が出ました、感激しました。1年間いろんなことがあったけど、乗り越えてよかった」
(菅野由起さん)
「きれいになった自分を見ることで気持ちが上がる、気持ちが喜ぶ手段の1つとしてメイクセラピーを医療現場でやりたい、必要だと思いました。メイクの力を感じられる時間になって、本当にありがたかったです」
(2025年11月25日放送「News Park KSB」より)