第2次世界大戦後の「シベリア抑留」をテーマにした演劇が25日、高松市で上演されました。2024年から2025年にかけて若い世代を中心に作り上げた作品の「再演」です。戦争の記憶をつなぐ取り組みは続いています。
「極寒、雪ばかりのシベリアから舞鶴港に生還したときに見た美しい日本の秋は今も鮮やかに脳裏にある」
25日、高松市のレクザムホールで上演された演劇「沈黙を聴く」。第2次大戦後、旧ソ連軍に連行された日本人が過酷な労働を強いられた、「シベリア抑留」がテーマです。登場人物には実在のモデルがいます。
シベリア抑留経験を語れず…70歳から絵筆を
さぬき市の川田一一(かずいち)さん(当時86歳)。
20歳のときに旧満州で終戦を迎えて捕虜となり、現在のカザフスタンで約3年間、炭鉱作業などに従事しました。
しかし、帰国後、抑留の経験を誰にも語らず、70歳になってから絵筆を握り、帰国がかなわなかった仲間たちへの「鎮魂の思い」を作品にしました。
(川田さんの孫・画家/千田豊実さん)
「キャンバスの前でうずくまって動かないなと思っていたら、ちょっと涙していたりとか。見て、私もいたたまれなくなったんですけど」
川田さんの孫で、画家の千田豊実さん。
川田さんが亡くなった後もシベリア抑留をテーマにした絵画を制作し、祖父が遺した絵と一緒に展示してきました。
若い世代に記憶をつなぐ 大学生らと演劇づくり
さらに、若い世代にも記憶をつなごうと演劇づくりに挑みました。千田さんの友人で、四国学院大学で演劇を教える仙石桂子教授が脚本と演出を担当。
抑留経験者の遺族や語り部を招いた座談会を開くなど、約1年半かけて学生らとともに作品づくりに取り組みました。
そして、2025年12月、四国学院大学のスタジオで公演を行いました。大学生たちが遺族らを訪ねてシベリア抑留について学ぶストーリーで、実際に聞き取ったエピソードを交えながら学生の気持ちの変化も描きました。
(画家/千田豊実さん)
「実際演じてもらうことによってすごく肌で感じたというか改めて多くの人に伝わったんじゃないかと思います」
3日間で約240人が来場したこの公演。もともとは1度きりの予定でしたが、「次」につながりました。
再演…就職・出産を経て演技に「深み」も
戦争にまつわる映画の上映とコンサートを開いている高松市の団体が、2025年の舞台を見て再演を持ち掛けたのです。
(高松市こどもに平和な明日を繋ぐ会/筒井百合子さん)
「(戦争経験者の)生の声を伝えることができなくなってるでしょ。(この取り組みは)戦争を知ろうとしてますよね。調べて、知ろうとして。若い人がしてくれるのはとてもうれしい」
初演のキャストは半数以上が大学生でしたが、今回は、卒業生や仙石さんが主宰する劇団のメンバーらが出演します。
川田一一さんをモデルにした役は2025年に引き続き、池内怜士さん(22)が演じます。
2026年春に大学を卒業して社会人になりましたが、仕事終わりに練習に励んできました。
(川田一一さんモデルの役/池内怜士さん)
「劇場も変わって、他の俳優も変わって全く新しい感覚なんですけど前回の公演で積み上げたものはそのまま生かせるように。前回よりも役に対する理解度みたいなものは深まってきた」
抑留経験者と大学生の2役を演じる、劇団員の多田羅智未さん(32)。
2025年の公演に向けてシベリア抑留生活や引き揚げに関する資料を展示する京都の舞鶴引揚記念館を訪れるなどして役作りを進めてきました。
(劇団員/多田羅智未さん 2025年4月)
「これからもずっとしゃべっていかなきゃならない、語り継いでいかなければならない内容なのかなと大変思いました」
しかし、その後に妊娠がわかったため出演を断念。2025年12月に男の子を出産し、今回の再演で舞台に立つことになりました。
(劇団員/多田羅智未さん)
「自分の息子、子どもにも絶対的に戦争には行かせたくないですし、そういう世の中ではあってほしくないとすごく感じるようになって。本当に次世代につなげていく必要がある内容だなというのはすごく感じますね」
(脚本・演出/仙石桂子さん)
「彼女が今回子どもを産んでから出てくれることになって、そういう意味でも命ってことをすごく感じる、さらにみんなで感じる作品になってるかなというふうに思います」
抑留経験者の「沈黙」を描く
会場には、大学での初演の2倍近い約460人が訪れました。劇中には、複数のシベリア抑留経験者が登場し、それぞれが語れなかった「沈黙の時間」が描かれます。
多田羅さんが演じたのは抑留中、旧ソ連軍からいわゆる「思想教育」を受け、帰国後に「共産主義者」という偏見を受けた経験から口を閉ざした父親です。
娘 「お父さん。誰かがアカ(共産主義者)は危険だって。警察が来るかもしれないって」
父親 「戦争が終わったのにまだこんなことが……」
娘 「どうして自分の考えを持つと悪いの?みんな同じじゃなければ生きられないの?」
父親「心の中にだけでも自由を持つんや。たとえそれが口に出せなくても」
孫娘 「ねぇ、おじいちゃん。描いてるとき、どんな気持ちで描いてたの?もっと聞いてよかったんですか?」
抑留経験者 「戦争は二度と繰り返すことはあるまい。私たちが感じただけでなく、自分たちの大切な子どもたちにも。また、これから生まれる幼い命のためにも」
(観客)
「体験をしたからこそ、伝えたくても伝えられない苦しさっていうか、そういうのをすごく感じました」
(観客)
「しゃべりたくないってだけじゃなくて、聞いてもらえないという部分もあったんだっていう、初めて知るようなこともあった」
「戦争って兵士だけじゃなくて一般の人も巻き込まれることがあって、あまりよくないことだなと思います」
コンサートも…広がる「記憶のバトン」
演劇の上演にあわせたコンサートでは、高松市出身のシンガーソングライター・はたなか圭一さんが今回の作品から着想を得た新曲も披露しました。
次の世代につなぐ「記憶のバトン」は、新たな広がりを見せています。
(画家/千田豊実さん)
「絵だけでは伝わらないところを伝えてもらえたら。今回も巡り巡ってというかいろんな方に出会って今に至るので、(今後の企画も)また仙石先生とじっくり話して温めていけたら」