「マスカット」は甘い味わいとともに、美しいエメラルドグリーンの色が特徴です。岡山県倉敷市に、マスカットを使ってワイングラスを制作する作家がいます。作品はなんとマスカットの色をしているんです。
鮮やかなエメラルドグリーンが美しい「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。ハウスを温めずに栽培する「無加温」物は、9月上旬から10月上旬が出荷のピークです。
倉敷市在住のガラス作家、白神(しらが)典大さんはマスカットを使ったワイングラスを制作しています。
(ガラス作家/白神典大さん) 「(炉の中は)今1100度くらいですかね。ちょっとうちは低めに設定しています」
白神さんの制作方法は「吹きガラス」です。金属の管で空気を吹き込み、シャボン玉のようにガラスを膨らませて形を整えます。
水あめのように柔らかくなったガラスは、息を吹き込んでいる間も回し続けないと形がゆがんでしまいます。
ある程度の大きさになったところで、アシスタントの女性が持った別の塊をくっつけます。この塊にマスカットを使っています。
(白神典大さん) 「マスカットの灰を溶かしたガラスを今付けました」
この1時間前「カレット」と呼ばれるガラスのかけらと「マスカットの灰」を交互に炉の中のつぼに入れていました。先ほどくっつけた塊は、これらが溶けて混ざり合ったものです。
(白神典大さん) 「これをガラスと一緒に溶かすと色が出るようになります。(灰は)成分がいろいろなので、色が安定しないので(ガラス工芸には)好んでは使われない」
「マスカット・オブ・アレキサンドリア」は、冬の間に枝を切り落としておくと大きな果実を付けます。 白神さんが使う灰は、切り落としたマスカットの枝を燃やした後に残ったもの。灰と混ざってしまう地面の土に含まれる「鉄」が溶けると緑色になるそうです。
(白神典大さん) 「(マスカットの灰を)陶芸の作家さんが釉薬として使うという話を聞いていて、これガラスでもできるんじゃないかなという思いを持ってたんですよ」
白神さんは木立から漏れる「こもれび」をイメージした美しい作品や、独特の青みを持つ作品など独創性と高い技術が持ち味のガラス作家です。
マスカットの灰を使ったワイングラスは、岡山市のギャラリーとの話し合いから制作がスタートしました。
(白神典大さん) 「地元のものを使うチャンスがついに僕にも来たかなという感じで、どこまでマスカットに寄れるかを考えながら制作しましたかね」 割れないようにゆっくりと冷ましできあがったワイングラスは、ワインを入れる部分とグラスの脚の部分との間にマスカットの色に近い、淡い緑色のアクセントを取り入れています。
さらにマスカットの灰を使ったその他の作品。色合いが少しずつ違うのは灰に含まれるわずかな不純物などによるそうです。
(白神典大さん) 「この色って狙って出すのは難しいんで、溶けて変化してる間に、上手にガラスを使うという感じで制作しています」
「唯一無二」の色合いのガラス作品は、岡山市北区出石町の「アートスペース油亀」のホームページで10月中旬から販売の予定です。