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【特集】改正ストーカー規制法が全面施行 被害にあった文筆家が「残る課題」を訴え

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 「改正ストーカー規制法」が8月26日、全面的に施行され、GPS機器などを使って無断で相手の位置情報を取得する行為が新たに規制の対象になりました。

 自身がストーカー被害を受けた経験をもとに法律の問題点を訴えてきた香川県小豆島在住の文筆家、内澤旬子さんは「今回の改正で終わりにしてはいけない」と残された課題について訴えを続けています。

改正ストーカー規制法に足りない部分

 改正ストーカー規制法の全面施行前日の8月25日、文筆家の内澤旬子さんは東京で記者会見を開きました。

(小豆島在住の文筆家/内澤旬子さん会見)
「被害者が被害に遭う以前のように暮らしていくためには、この法律にはまだまだ足りない部分がございます。一点が恋愛とそのもつれからという動機のしばりをなくすことで、もう一点が加害者の治療を義務化することです」

自身の経験を記した書籍「ストーカーとの七〇〇日戦争」

 内澤さんは、2016年に元交際相手からSNSなどを通じたストーカー被害を受けた経験を本に記しました。

 加害者は一度逮捕、不起訴になった後、内澤さんを逆恨みし、インターネット掲示板に誹謗中傷の書き込みを続けました。しかし、ストーカー規制法には「恋愛感情を満たす目的」という要件、動機のしばりがあり、加害者の行為は「憎悪」によるものだとして規制の対象にはならず。加害者は名誉毀損と脅迫の罪で実刑判決を受けましたが、出所後、内澤さんが求めた「接近禁止命令」を出してもらえませんでした。

 内澤さんは引っ越しを余儀なくされ、今でも宅配便を自宅宛てにせず営業所まで受け取りに行くなど、生活への影響が続いています。

(ストーカー被害を受けた文筆家/内澤旬子さん)
「いつ収まるか分からない、犯行というかあれなんですよね。だからずっとおびえる癖がついちゃうみたいな」

 内澤さんは本の出版だけでなく、2020年から国会議員などに自身の経験と法律の問題点を伝える活動を始めました。

 改正法案が審議された2021年5月の衆議院内閣委員会では、「恋愛動機」のしばりを撤廃すべきという声が与野党の議員から上がりました。しかし……。

(警察庁/小田部耕治 生活安全局長)
「ストーカー規制法の在り方そのものに関することから慎重な検討を要するものと認識しております」

 GPS規制など政府が提出した改正案の早期成立が優先され、「対策の検討」が付帯決議に盛り込まれるにとどまりました。改正法の成立後、しばらく落ち込んでいたという内澤さんですが、6月中旬、再び動き出しました。

県議会議員に改正法の課題について説明

 6月18日、高松市の政党事務所を訪れた文筆家の内澤さん。

 香川県警のストーカー対策の取り組みについて議会で質問してもらうため、県議会議員に面会を申し込んだのです。

(ストーカー被害を受けた文筆家/内澤旬子さん)
「私が声を上げるのをやめちゃうと、この問題進まないんじゃない?みたいなのもちょっとあるんで息絶え絶えですけど、ちょびちょびでも前進していこうかなって」

 警察や公安委員会を所管する県議会の総務委員会所属の米田晴彦議員に、改正法の課題について説明しました。

(ストーカー被害を受けた文筆家/内澤旬子さん)
「ストーカーって病気なんだというのは自分の中で腑に落ちまして。何回も、何を言っても聞いてくれなくて、止めないとか行動依存、依存症の一つであって、治療をしないともうどうにもならない」

 近年、性犯罪者の再犯防止、更生プログラムには医学や心理学を用いたアプローチが取り入れられています。

 ストーカー加害者に対しても全国の警察が地域の精神科医と協力して受診を勧める取り組みを5年前から行っていますが、2020年は882人に声を掛けて、実際に受診につながったのはわずか124人でした。

香川県の現状は――

 香川県ではどうなのか、6月の県議会総務委員会で米田議員が質問しました。

(香川県警本部/濱野賢吾 生活安全部長)
「治療につないだ件数及び執行額につきましては合計で4件、2万8440円の執行。加害者が治療等に同意をしていることが要件となっていることから、適切なタイミングで働きかけを行っている次第であります」

 香川県警のストーカー規制法違反の検挙件数は年間20件ほどですが、2017年度からの4年間で精神科医への診察につないだのは4件。

 年間約7000円の公費負担は、警察が加害者の情報や事案の概要などを連携する医療機関に共有する際に支払うもので、受診費用は「本人負担」となっています。

「恋愛動機」のしばりについては……

(香川県警本部/濱野賢吾 生活安全部長)
「感情という行為者の内心面について判断いたしますことから、恋愛感情等に基づくものか、単なる嫌がらせ行為であるものか判断に苦慮するケースも少なくございません」

(ストーカー被害を受けた文筆家/内澤旬子さん)
「そりゃそうだろうなと思うんですね。シンプルに法律が(感情ではなく)行為に関して適用するっていうふうに変わっていただければ、現場の方もやりやすいのではないかなと」

 8月25日の記者会見では、内澤さんに頼もしい味方2人が加わりました。

改正ストーカー規制法の課題に痛烈なツッコミ

 1人は沖縄を拠点に活動するお笑い芸人でYouTuberのせやろがいおじさん。

 沖縄の海をバックに、ふんどし姿でさまざまな時事問題について、痛烈なツッコミを交えながら分かりやすく伝えています。改正ストーカー規制法の課題を広く知ってもらおうと、内澤さんたちが動画制作を依頼しました。

(せやろがいおじさんの動画)
「え?つきまとってる側がどんな感情でつきまとってるかどうかで処罰されるかどうか決まるっておかしくない?おい!君は恋愛感情でつきまとってるな。それはアカンぞ!あっ!君はアンチの感情でつきまとってんな。ほなOK、ってわけ分からん」

(お笑い芸人・YouTuber/せやろがいおじさん)
「聞いてみたら、本当にこんな落とし穴がたくさんある法律なのかっていうのにまず驚きました。この法律がいかに救えてない、拾えてない被害が多くあるか」

つきまとい被害者の実態調査を実施

 もう1人は、評論家で社会調査支援機構「チキラボ」の代表、荻上チキさん。

 内澤さんと共にクラウドファンディングで費用を募り、2020年12月から2021年1月にかけて、インターネットでつきまとい被害者の実態調査を行いました。

 加害者は交際相手や元交際相手が21.8パーセントで最も多かった一方、全く知らない相手やSNSなどで知り合った人、職場やアルバイト先の「客」といったほとんど関係性がない人も3分の1以上を占めました。

(社会調査支援機構『チキラボ』 代表/荻上チキさん)
「交際の要求が行われればそこで恋愛動機だということが分かるわけですけれども、交際の要求というものがないままに、つきまといが続いてしまうということになると動機というのが分からない。今の恋愛要件しばりというものの限界というものが垣間見えるのかなと思います」

 会見の最後に内澤さんは、新型コロナ感染拡大の中、悩みながらも上京して会見を行った理由を語りました。

(ストーカー被害を受けた文筆家/内澤旬子さん)
「改正法施行直前のこの時期を逃しますと、また今回のストーカー規制法のことは忘れ去られて、問題点があることも忘れ去られて先延ばしにされてしまうのではないかと。そして、実際に殺されるとかいう深刻な被害者が出るまで、全くまた忘れ去られてしまうんじゃないか。そうなってほしくないからこそ、もう今声を出すしかないと思いまして。どうかよろしくお願いします」

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