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【解説】全国初の『太陽光パネル税』導入に総務省が「待った」…美作市と事業者は意見が対立 岡山

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 今回は、岡山県美作市が2023年度から導入しようとしている「太陽光パネルへの税」について解説します。

 導入されれば全国で初めてとなりますが、導入の可否を判断する総務省から先日「待った」がかかりました。その上で総務省は美作市に対し、太陽光発電の運営事業者と再度「協議」するよう通知しました。税の導入を巡っては「市」と「事業者」の意見が「対立」しています。

 美作市ではこのところ太陽光発電施設の建設が相次いでいます。市によると工場の屋根などに設置されたものも含めると市内には事業用の太陽光発電施設が約280あります。

(美作市/萩原誠司 市長)
「(施設数は)日本一だと言っていいと思います」

 美作市は、「晴れの国」という岡山県のイメージに加え、廃業したゴルフ場など施設を整備しやすい場所が多かったことが増加の理由だとみています。そんな中、美作市は全国で初めてとなる「太陽光パネル税」を導入しようとしています。

 2021年12月にはこの税の創設を盛り込んだ条例案を市議会で可決しました。

(美作市/萩原誠司 市長)
「住民の方々がこれなら分かったといっていただける環境をつくることが最大の目的になります」

 美作市によると太陽光発電施設の整備のために山林などを開発することで、土砂災害や鳥獣被害の増加が懸念されます。

 「パネル税」はこれらの対策に充てる費用を事業者から徴収しようというものです。

 美作市の計画では原則、発電認定容量が10キロワット以上の施設が対象でパネル1平方メートル当たり「50円」を課税します。建物の屋根に設置しているものは対象外です。

 市の試算では課税対象となるのは約80施設、年間で約1億1000万円の税収が見込まれます。

 この「パネル税」は「法律」ではなく自治体が「条例」を定めて課す「法定外税」にあたります。そのため、導入には総務省の「同意」が必要になります。

 美作市は導入に向けて総務省に「協議書」を提出していましたが、総務省は6月10日付で事業者と再度協議をするよう通知。つまり、計画に「待った」をかけました。その理由に挙げたのが「市と事業者の間で認識に隔たりがある」という点です。

 その事業者の一つが東京に本社が「パシフィコ・エナジー」です。美作市では国内最大級の「作東メガソーラー」を運営しています。

 美作市との間で特に認識が異なるのは「災害対策」に対する見解です。

(松木梨菜リポート)
「こちらの施設にはこうした貯水池が全部で21カ所整備されているということです」

 通常、山に雨が降った場合、森林が雨水を吸います。しかし、山林を開発し草木がなくなってしまうと雨水を吸収できず、土砂災害の危険性が高まります。

 この土砂災害を防ぐ対策の一つが、雨水を受け止めるための「貯水池」の整備です。岡山県は「森林法」に基づいて貯水池の整備基準を定めています。

(パシフィコ・エナジー担当者)
「当社は県の基準の1.8倍以上の調整池を費用として整備し、地元と防災と安全を大きく向上させました」

 一方、美作市は近年の災害を受けてさまざまな基準や指標が見直される中、「作東メガソーラー」は想定される最大の雨には対応できていない、などと主張しています。

(美作市/萩原誠司 市長)
「平成21年に大きな水害が起こりました。その水害が起こった地域にパネルが設置されているものですから、住民の方々の不安を解消するためにさまざまな施策が必要になっています」

 地方自治に詳しい香川大学法学部の三野靖教授は、美作市の見解について――。

(香川大学法学部/三野靖 教授)
「一番は住民の声でしょうね。(設置に)反対意見。指をくわえて見てるわけには市民の反対がある中でいけないっていうことで、できる限りのいろんな対応策を考えるということが今回の税金も含めてそういうことじゃないですかね」

 双方の主張を整理すると、「パネル税」導入の理由でもある「災害対策」について事業者側は「十分基準を満たしている」、美作市側は「不十分」だとして対立しています。

 美作市は市内に太陽光発電施設が増えたことで川が氾濫するリスクが高まったとして、約5億5000万円をかけて2021年から河川の治水対策工事を行っています。こうした費用の一部をまかなうためそれぞれの事業者から「パネル税」を徴収しようとしていますが、冒頭お伝えしたように総務省から「待った」が掛かっています。

 国が再生可能エネルギーの拡大を図っていることもあり、岡山県では国が認定している太陽光発電施設の導入量が、2021年12月時点で188万キロワットで2017年と比べ2倍以上に増えています。

 こうした中で、「パネル税」の導入を巡る今回の問題が与える影響とは――。

(香川大学法学部/三野靖 教授)
「美作の例は一つのリーディングケース(先例)になって、他の自治体がうちも考えてみようかとなる可能性はあります。太陽光パネルを持ってこさせないための抑制税(に見えてしまう)。これが全自治体に広がったら大変なことになりますから、同意できないってことじゃないですかね」

 また、三野教授は今回の問題の背景に太陽光発電に関する包括的な法整備が進んでいないことがあると考えています。

(香川大学法学部/三野靖 教授)
「そもそも太陽光発電をどこまで日本のエネルギー政策の中で続けるのかってことがあった上でそれに対する適切な規制が(必要)。なおかつ地域の実情に配慮するためにどこまで自治体での独自の規制や裁量を認めるかってとこで制度設計を一度しないと、同じような問題は各地で起きてくると思います」

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