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【特集】被災しても「離れる選択肢なかった」 堤防と同じ高さまでかさ上げした土地に自宅を再建…住民の思いとは 岡山・倉敷市〈西日本豪雨から5年〉

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 西日本豪雨で大きな被害を受けた倉敷市真備地区には全国的にも珍しい方法で再建を目指す地区があります。堤防と同じ高さまで住民が土地をかさ上げし、そこに家を建てるというもの。原動力になったのは住み慣れた場所で安心して暮らしたいという願いです。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増恭廣さん)
「あっという間の5年近い感覚と、かなり5年経ったなというのがちょっと交錯している。もうできあがったばっかりで、5月27日に引っ越してきましたので、ほやほやです」

 2018年の西日本豪雨で被災した倉敷市真備町箭田の須増恭廣さん(69)。2023年5月に自宅を再建し、妻や子どもたちと暮らしています。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増恭廣さん)
「平成16年(2004年)に家建てたばっかりなんですけど、その家が被災したので。私の代で2軒建てるとは思いませんでした」

 須増さんの自宅は小田川と高馬川の堤防が決壊した場所のすぐ側にありました。家は濁流に飲まれ全壊しました。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増恭廣さん)
「『おたくらの地域って危なくって、本当は住んではいけない所じゃないの』と言われたんです。それならちゃんとした、危なくないところにして住もうと。自分が生まれたところですし、被災したからといって自分の代でここを離れるような選択肢はなかったです」

 建てたばかりの自宅の2階からは小田川が見渡せます。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増恭廣さん)
「災害時はすごく怖い存在だったんですけど。気持ちいいですね。この景色って今まで見たことないんですよ、うちは土手の下だったから、今土手の上にあるので」

 須増さんが自宅の再建に約5年かかった理由。それは、強化された小田川の堤防と同じ高さまで自分たちで土地をかさ上げし、その上に自宅を再建するという全国的にも珍しいプロジェクトにありました。

(高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所/濱田靖彦 所長)
「堤防の厚さが厚くなっている形。仮に堤防を超えるような水が来たとしても、堤防としては削られにくくなるので、強くなるという効果はあります」

 須増さんが住む地区では豪雨で被災した5軒が土地をかさ上げしました。

 小田川の堤防の高さまで約6m。工事は2022年4月から10月まで行われ、新たな宅地ができ上がりました。

(高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所/濱田靖彦 所長)
「形的には関東とか近畿でやってる『スーパー堤防』に近い形で、似たような構造になってるのかなと」

 高規格堤防、通称「スーパー堤防」の特徴は何といっても壊れないことです。

 東京都の大きな川沿いでは堤防の高さの約30倍の幅で地域ごとかさ上げすることで大洪水が起きた場合、水が溢れることはあっても壊滅的な被害は避けるようにしています。

 かさ上げプロジェクトも堤防を強くすることで低い土地にある周りの住宅を守ることも期待されます。いわば「真備式スーパー堤防」です。違うのはスーパー堤防のように国や自治体が手掛けるのではなく住民らが自分たちで実施した点です。

 かさ上げプロジェクトを中心となって進めた須増国生さん(62)。国生さんの家もかさ上げプロジェクトの5軒のうちの1軒です。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増国生さん)
「安心感はめちゃくちゃ上がってる、もう間違いないです。やっと完成までこぎつけたと」

 国生さんの家はまだ建っていません。現在は真備地区の別の場所に父親と住んでいます。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増国生さん)
「挫折だらけですけどね。5軒で図面を書いたり、『ここはどう変えようか』とか『ああしよう』とかすごくやりました、いつも頭はこの事業のことですね」

 プロジェクトの実現に向けて小田川を管理する国、高馬川を管理する県、道路を管理する倉敷市、そして周りの住民たちと長い期間、話し合ってきました。

 かさ上げのための土は小田川の河道を掘削して出た残土を利用しましたが、費用は5軒合わせて5000万円ほどかかったそうです。

 5年の歳月がたち、同じ集落に住む家も14軒から11軒に減りました。

 国生さんの近所でも豪雨で1人が犠牲になりました。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増国生さん)
「すごく怖い目に遭われて、この地はもうちょっと無理だなって言われる方の気持ちも本当よく分かります。私が思った気持ちは、自分の家はやっぱ自分で守る、自分たちの地域は自分たちで守っていきたい」

 国生さんは自分たちの地区が復興する姿を多くの人に見てほしいと感じています。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増国生さん)
「水害が多い近年ですけども、堤防に土を盛りかける、スーパー堤防方式をどんどん他の地域にも広まれば、安全な日本に変わっていくのではないかなとは思っています」

 西日本豪雨からまもなく5年。真備町は田植えの季節を迎えました。

 国生さんも父親から継いだ田んぼを守り続けています。

(西日本豪雨で自宅全壊/須増国生さん)
「稲を植えた姿が継続してずっと続くっていうのが、素晴らしい、すごいこと。変わることは大変いいことだと思うけど、今以上に良くなったって思えるよう、いろいろやっていきたいと思います」

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