高松市の障害者支援施設が、職員不足を理由に利用者11人の契約を解除すると8月、保護者に通知しました。一方、保護者は利用の継続を望んでいます。契約解除日が迫っていますが、話し合いは進んでいません。
藤岡龍史さん、34歳。重度の知的障害があり、3歳で自閉症と診断されました。ここ数年は、新聞のチラシに強いこだわりがあり、新聞が配達されると早朝から、チラシを隅々までチェックしています。
(母/あゆみ さん[58])
「(龍史さんは)買い物には必ず一日一回は行きたいので、こういうのを見て、新発売のものを頭に置いて、それをめがけて買いに行くというか」
言葉については、「スーパー」や「本屋」などの単語を少し話す程度ですが、他の人が話していることはわかるそうです。
龍史さんは10代のころ、急に家を飛び出し、他人の自転車で走り回ったり、買い物に行ったときに商品をそのまま持って帰ってしまったりしてその後、親が対応するケースがあったそうです。
特別支援学校を卒業した後、2009年に高松市にある障害者支援施設「ウインドヒル」に入りました。
今は、平日は施設で過ごし、週末は自宅に戻るという生活を送っています。
(父/幸弘 さん[59])
「今回だいぶ落ち着いてますけど、普通の健常者と違うので、どうしても気になる。やっぱり(私の)気持ちが張りつめてるというのはあると思います。その辺を365日見ていただく、というのは、私たちも年もいってくるし、自分のことで精いっぱいになると思う。70歳、80歳、自分の体のことで。そういうのを訴えたい」
8月、藤岡さんの元に施設から「来月9日をもって龍史さんとの契約を解除する」という通知が送られてきました。理由は「職員の減少に伴い利用者の安全確保のために定員を削減する」というものでした。
(父/幸弘 さん[59])
「次の施設といっても、施設がなかなか見つからないというのは聞いていましたので、今はその不安だけ」
(母/あゆみ さん[58])
「私も今、病気を抱えているので、体調にもよるんですけど、見られるのかなと、やっぱり不安はよぎる」
龍史さんが利用している高松市三谷町の「ウインドヒル」は、自閉症と診断された重度の知的障害者を中心に現在47人が利用しています。
「契約解除」の通知は利用者11人に送られてきました。
(保護者/木内眞由美 さん)
「私たちのように、本当に選択肢が少ない中でやっと得た選択肢の一つを今、取り上げられようとしている。そのことに対しての動揺とか怒りとか理不尽さとか、そっちの方が大きい」
契約解除の背景には職員の大量退職があります。施設によりますと、6月から7月にかけて全体の約3割に当たる11人の職員が退職しました。
KSBの取材に対し施設側は「新規職員の採用も難しく、利用者の安全と残った職員を守るためには苦渋の決断だった」「理事会では、自らほかの施設に移ってくれる人を募る案も出たが、最終的に定員を減らすしかないという結論に至った」と説明しました。
契約を解除する11人の人選について、施設側は「障害の特性や家族構成などを総合的に勘案して選定した」としています。
解除通知を受けた利用者11人の保護者全員が、ウインドヒルの利用継続を望んでいます。
ウインドヒルの運営法人「社会福祉法人ポム・ド・パン」を指導監督する高松市は――。
(高松市/大西秀人 市長)
「利用者や保護者の同意なしに利用者を強制退所させるということは、人権上問題があり、あってはならないものだと考えている」
高松市は、保護者らに対して「もし強制退所となれば、法人に対して社会福祉法に基づく業務改善勧告を出すことも視野に入れている」と説明しています。
保護者の多くは、以前から施設側に説明会の開催を求めていて、今回の解除通知に対しても「説明会が実施されない限り契約解除には応じない」「職員減少は契約解除の理由に当たらない」などと主張しています。
一方、施設側は「解除する利用者には新しい生活の場を探したい」「それぞれ状況が違うので、個別で協議したい」としています。
契約解除日は9月9日です。