2014年、香川県善通寺市で危険ドラッグを使った男が運転する車にはねられ、当時11歳の女の子が死亡しました。事故から11年。服役中の加害者の男から2月、遺族に手紙が届きました。
善通寺市の秋山隆志さん(55)と妻の裕紀子さん(53)。11年前の2月、当時11歳だった1人娘の実久さんを亡くしました。
(実久さんの父/秋山隆志さん)
「11年前にちょうど2月9日に葬式が行われ、交通事故があってから葬式までの流れの日を毎年毎年味わうのが本当に嫌で……つらい日が続いていましたので」
1人娘が亡くなって11年
2014年1月29日、小学校から下校中だった実久さんは対向車線から直進してきた軽自動車にはねられました。頭をフロントガラスに打ちつけられ意識不明の重体に。9日後、病院で息を引き取りました。
運転していた男は事故の直前に危険ドラッグを使っていました。
1月24日、隆志さんは高松市にいました。犯罪や交通事故の被害者の等身大パネルを展示する「生命のメッセージ展」に参加するためです。
この1週間ほど前、隆志さんのもとにはある知らせが入っていました。実久さんをはねた男が「手紙を届けたい」というのです。
(実久さんの父/秋山隆志さん)
「ちょっと心が動揺しています。交通事故のときの怒りがそのまままた心の中で生まれてしまうっていうことになるのですごく不安でいっぱいです」
法廷で遺族が感じたこと
(実久さんの父/秋山隆志さん・2015年)
「(男は)他人事のような感じで裁判官を見たり、時計を見たり、私たちをちらちら見たり、その間憤りを感じる時間でした」
10年前に行われた刑事裁判。被害者参加制度を利用して参加した隆志さんと裕紀子さんは、法廷で反省の言葉を述べた被告の男が心から反省しているとは感じませんでした。
(実久さんの父/秋山隆志さん・2015年)
「犯人はほとんど反省していない状態は続いていたんだと思いました。頭を下げることは一度もなく、私たちに気持ちが全然伝わってこないような内容でしたし」
(実久さんの母/秋山裕紀子さん・2015年)
「私と目が合えば目をそらし、今置かれている状況がちゃんとわかっているのかというところが見受けられました」
男は、危険運転致死の罪で懲役12年の判決を受けて服役。その後、遺族と直接やりとりをすることはありませんでした。
加害者と顔を合わせることへの恐怖
事故から10年が経った2024年2月、隆志さんの心には新たな気持ちが生まれていました。
(実久さんの父/秋山隆志さん・2024年2月)
「(男と)もしどこかですれ違ったりとか姿を見かけたりすることがすごく怖くて」
男は事故当時、隆志さんと同じ善通寺市に住んでいました。刑期を終える前に仮釈放される可能性もあり、隆志さんはそう遠くない未来に男と顔を合わせるかもしれないと思い始めていました。
(実久さんの父/秋山隆志さん・2024年2月)
「心が休まらないっていうかずっと被害者であり続けるっていうのがこれだけつらいものなのかっていうことをすごく思い知らされます」
心情等伝達制度で受刑者に質問
(実久さんの父/秋山隆志さん・1月24日)
「これが犯人に対しての質問状」
受刑中の加害者に被害者や遺族の思いを伝え、更生につなげようという「心情等伝達制度」が2023年12月に始まりました。
隆志さんと裕紀子さんは2024年3月、この制度を利用して男がどんな反省をしてきたか、実久さんや遺族にどんな思いを持っているかなどについて質問しました。
刑務所から届いた文書には「申し訳なく思っています」「毎日手を合わせて実久さんの冥福を祈っています」などと男が述べたと書かれていました。
(実久さんの父/秋山隆志さん・1月24日)
「この文を見てですね、本当に受刑者が言った内容なのかというのを疑問に思いました。涙ぐみながら言ったのか、笑いながら言っているのか、よそを向いて話を聞いているのかっていうふうなことも少し添えて書いていただけたら私たちにはその状況が分かる」
パソコンで打たれた文字、刑務所が間に入って作られた文章。隆志さんには男の本心が分かりませんでした。
それだけに男から新たに届く手紙の内容にある種の期待を抱いていました。
(実久さんの父/秋山隆志さん・1月24日)
「その文が多分、本当の彼の言葉であり気持ちが入った文章になっていると思いますので、仮出所が早くなるだろうというふうな考えをもとに書いた文なのか見極めてみたいなとは思います」
受刑者から届いた手紙に遺族は
(実久さんの父/秋山隆志さん・2月9日)
「これが犯人から届いた手紙なんですが……開けます。ああ、本人の直筆ですね。全部が」
(実久さんの父/秋山隆志さん・2月9日)
「今読みましたが、ほとんど心情等伝達制度のこと(回答)をなぞった内容になっております。文章の書く順番、書く内容、本当に心情等伝達制度のときの内容とほぼ一緒です。なので、感想はほぼないです」
便せん3枚に書かれた手紙には「申し訳ない」という内容が12回出てきました。「一生償います」という言葉もありましたが具体的な方法は書かれていませんでした。
(実久さんの父/秋山隆志さん・2月9日)
「果たして謝罪文として受け止めていいのかっていうのは、どう判断すればいいのだろうという感じですね」
加害者が本当に更生しているのか知りたい気持ちと、関わりたくない気持ちの両方を抱えている隆志さん。男の刑期満了が近づいています。