建築家・丹下健三が設計した旧香川県立体育館の解体工事契約を結ぶための議案の採決が11日、香川県議会で行われます。香川県は解体を急ぐ理由として「大地震による倒壊の危険」を挙げていますが、その判断に専門家から疑問の声も上がっています。
見解が分かれる”倒壊の危険”
旧香川県立体育館を巡っては2025年7月、建築家らでつくる「再生委員会」が買い取りなどによる民間資金での再生を提案しました。
9日の県議会一般質問でも2人の議員が、なぜ民間団体との協議に応じないのか知事に問いました。
(香川県/池田豊人 知事)
「同グループ(再生委員会)からは地震時に旧県立体育館が倒壊する危険は想定されないという考えが示されており、同グループからの提案については安全確保などに関して懸念があるものと考えております」
再生委員会は複数の専門家の意見をもとに「大地震で建物全体が倒壊する危険は想定されない」と主張。再生委員会と香川県、県教委は8月と9月に2度話し合いの場を持ちましたが、この倒壊の危険についての見解は分かれています。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「知事が言われる見解の違い、倒壊するという言葉、そこに大きな誤りがあることをきちんと伝えさせてもらいました」
2012年の耐震診断結果は
香川県側が根拠としているのが2012年に丹下都市建築設計(現・TANGE建築都市設計)が行った耐震診断の結果です。
構造耐震指標「Is値」が1階と中2階で基準を下回り、国土交通省が示す安全性の評価に当てはめると、「地震の震動、衝撃に対して倒壊、または崩壊する危険性がある」となります。
国交省の評価には「倒壊・崩壊の危険性が高い」、「ある」、「低い」の3つの区分があり、危険性が「ある」と「低い」の境目は香川県の場合、Is値は0.54。2012年の旧県立体育館の診断では0.47から0.52でした。
耐震診断のもう一つの指標、建物の粘り強さを示す「CT・SD値」を見ると、旧県立体育館は基準となる0.27を大きく上回っていました。
こうして図にしてみると、香川県側が強調するように一刻も早く安全確保する必要があるほど危険な建物なのでしょうか。
丹下憲孝氏「改修のための診断書」
2025年9月、教育長と香川県の営繕課長が建物の安全性について記者会見を開きましたが、耐震診断結果以外に建物全体が倒壊するという明確な根拠は示されず、第三者による検証の必要性も否定しました。
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「グシャッとなるとか倒れ方も向こうに行くのか横に行くのかそれは分かりませんけども、じゃあ本当にどんな倒れ方をするのかというと何万通りの揺れがあるわけですから、それはなかなか全てを網羅することは難しいかなと思います」
耐震診断を行ったTANGE建築都市設計の会長、丹下憲孝さんは……。
(TANGE建築都市設計/丹下憲孝 会長)
「倒壊するとかいうことは申しておりません。より長く使っていただくための補修、改修のための診断書であって、そういう形で(解体の根拠として)取り沙汰されるのはちょっと私としては残念な気がしている」
専門家「倒壊まで考える必要ないのでは」
建築構造が専門で、地震による耐震性能にも詳しい東京大学名誉教授の神田順さんも耐震改修促進法に基づく耐震診断の結果を、解体するかどうかの判断に使うことに否定的な見解を示しています。
(東京大学/神田順 名誉教授)
「補強工事をするということが大切だということは言えるんですけれども、危険性をどの程度と判断するかということに関しては、今回の(旧香川県立体育館の)耐震診断の結果を見る限りは、直ちにその危険があるからという状況ではないというふうに私は拝見しました」
神戸市で最大震度7を記録し、約25万棟の住宅が全壊、半壊被害を受けた1995年の阪神・淡路大震災。
神田さんは被害調査をもとに、神戸市の沿岸部の被災地を500mごとのメッシュにし、そのエリアで観測された地震の最大加速度と建物の被害率をグラフに落とし込みました。
このうち大破または倒壊のグラフです。神田さんによると、南海トラフ地震の際に高松市で想定される加速度190~340Galでは被害率は1~2%程度だといいます。
(東京大学/神田順 名誉教授)
「(旧香川県立体育館は)小破、中破の可能性はあるとは思うんですけれども、倒壊するということまで考える必要はないのではないか」
香川県議4人は再生委員会のメンバーや専門家らを参考人招致して倒壊の危険性も含めて議論するよう要請しましたが、県議会の文教厚生委員会は2日、全会一致で招致しないことを決めました。
旧香川県立体育館の解体工事の請負契約を8億4700万円で結ぶための議案は11日、県議会の本会議で採決されます。