今回の解説は、香川・丸亀市民への「現金給付」についてお伝えします。
2021年4月に就任した丸亀市の松永恭二市長は市長選の公約で「全市民への現金10万円支給」を掲げていました。しかし5月、支給額を半額の5万円に方針転換し、現在開かれている市議会に関連する議案を提案しています。何が起こったのか、そして公約違反ではないのか。まずは経緯を振り返ります。
10万円支給が半額に……変更の経緯は?
(丸亀市/松永恭二 市長[丸亀市長選の告示日・4月11日])
「コロナ対策でやりたいことは全市民に10万円を支給するということです」
元丸亀市議会議員で議長経験もある松永市長。
2021年4月の市長選では新型コロナウイルスの緊急経済対策として全市民に10万円を支給することを公約に掲げました。
選挙公報では現職で3選を目指していた梶正治さんが小さめの文字で情報を詰め込んだのに対し、松永市長は10万円支給を大きく打ち出しました。
松永市長が獲得した票は2万4790。わずか917票差で梶さんを破りました。
(初登庁した松永恭二市長)
「まず初めに取り組むのは、ちょうど私が選挙期間中に言っていました公約のことを、これをさっそく進めていく」
ところが、約1カ月後。
(丸亀市/松永恭二 市長)
「10万円を、今の段階で一番いいのは5万円という形にしました。楽しみにしていた市民の方々には本当に申し訳ないという気持ちはございます」
財源不足などを理由に支給額を公約の半額、5万円にする方針を明らかにしたのです。
(丸亀市民は―)
「期待はしていました。約束違反ですよね」
「詐欺みたいなもんと違うん?誰だってそう考えるわな」
「今後のことの方が気になるのでそこの(公約と違う)ところは別に気にはならないですね」
6月1日に開会した丸亀市議会。松永市長は全市民に5万円を支給する費用、57億3000万円を含んだ一般会計補正予算案を提案しました。
(丸亀市/松永恭二 市長)
「財政計画に影響を及ぼさない財源調達など、決して将来に禍根を残すことのない実施方法を考え抜きご提案させていただいております」
(最大会派・志政会[松永市長の出身]/横田隼人 会長)
「(Q.公約違反ではないか)私の口からははっきりと申し上げませんけど情けないなというのが一言です」
(野党系会派・市民クラブ/加藤正員 会長)
「明らかに公約違反だと、まずは。そもそも10万円を給付するという公約自体が、言葉は失礼ですけどばらまきだと」
公約違反では?丸亀市長の見解は
丸亀市の人口は11万人余りです。全員に10万円を支給すると単純計算で約110億円になります。松永市長は当初、「ボートレース事業」の収益を財源にすれば、10万円支給は可能だとしていました。しかし「新型コロナの第4波が想定外で、今後の対策のために財政の余力を残したい」などとして減額を決めました。現状をみて柔軟に対応したという見方もできますが、「公約違反」にはならないのでしょうか。
6月3日の議会終了後の松永市長に聞きました。
Q.公約違反ではないのでしょうか
「私の任期は4年ございます。その中で今の現状と今のコロナウイルスとの闘いの中で、今こういったようなことを選択して6月議会に議案で上げたというところでございますから。どうすることが市民にとって本当の利益になるんだということを考えて考えたあげく、そしてまたいろんなことを相談したあげくそれ(5万円支給)を推し進めようとしていますので。このことについてはこれからもしっかりと取り組んでいこうというふうに考えています」
Q.4年間という任期でみたときに10万円にいけばいいというお考えですか
「きょうも(市議会で)たくさん皆様に聞いてもらったと思うんですけど、もちろん私の考え方は今正しいと思っていますけど。(選挙では)夏に支給することに向かって頑張っていきたいという思いを皆さま方に伝えたわけでございます。そこはご理解願いたいと思います」
Q.夏までに支給できないことは公約違反ではないんですか、10万円を
「何度も同じことを言いますけど、私自身はまだこれを取り組んでいこうと思っていますので公約違反とは考えていません。ただ、申し訳ないというふうには思っています」
地方自治に詳しい香川大学法学部の三野靖教授は「公約違反だ」と指摘します。
(香川大学法学部/三野靖 教授)
「個別具体的なところまで住民に提示して選挙で通ったわけだから、それは公約違反と言われてもしょうがないと思いますね。いち議員が選挙の公約で10万円掲げて当選してしかもそれが実現できなかったっていうことと、首長になる人が10万円掲げてそれが実現できないっていうことは、全く意味が違う。選挙に当選した人に投票しなかった人の民意はどこへいっちゃうんだろうっていう、そういう懸念がありますよね」
専門家らが警鐘を鳴らす
三野教授は、公約違反にあたるかどうかに明確な定義はないとした上で「公約の内容が具体的か抽象的か」が大きなポイントだと話します。例えば「子育て支援を積極的にします」や「環境保護に力を入れます」というのは抽象的です。松永市長は今回「全市民に10万円支給」という具体的な公約を掲げていたわけです。
そして、こうした事例は他の自治体でも起きています。愛知県岡崎市では2020年10月の市長選挙で「市民全員への5万円支給」を掲げた新人候補が初当選しましたが、その後、関連の予算案が市議会で否決されています。
また、兵庫県丹波市でも2020年11月の市長選で「市民全員への5万円給付」を掲げた新人候補が、当選後、「商品券2万円分」に修正した議案を提案しましたが市議会で否決されています。こうした状況に専門家は警鐘を鳴らします。
投票行動に詳しい香川大学法学部の堤英敬教授は「有権者のためになるなら公約は必ずしも守らなくてもいい」としながらも、私たちへの影響を懸念します。
(香川大学法学部/堤英敬 教授)
「住民の声が、有権者の声が政治に反映されないということが大きな問題だと思いますし、また、そういうことが繰り返されてしまうと有権者の側は『政治家の方、今回こういうことをやるとおっしゃっているけどどうせできないんでしょ』と政治に対する、あるいは行政に対する不信っていうのにもつながりかねない。当然、市民が自治体やリーダーを信頼している方がうまく(行政が回る)。行政をスムーズに運営するっていう意味でも公約破りが横行してしまうっていうことがマイナスの影響を及ぼすと思います」
堤教授は「有権者にも候補者を見る目が求められている。そして、言動を見ているぞと示すことがけん制になる」と話しています。
なお、今回の件について選挙戦で敗れた梶・前丸亀市長に取材したところ「コメントは控えたい」としています。5万円支給に関連する議案は来週の委員会審議を経て6月21日に採決が行われる予定です。