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【特集】駆除されたイノシシ×家具に不向きな木材 里山を守る「椅子」作り 香川

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 駆除されたイノシシと家具としてはあまり使われていなかった木。これらを活用して「椅子」を作る取り組みが香川県で進んでいます。きっかけは、一人の男性の「里山を守りたい」という思いでした。

 2022年10月、木工家具を製作する高松市の井上製作所に1枚の木の板が持ち込まれました。この木はさぬき市南部に自生していた広葉樹の「アベマキ」です。

 アベマキは乾燥させたときに曲がりやすいため、これまで家具に使われることはほとんどありませんでした。

 さらにこんな物も……、持ち込まれたのはイノシシの革。徳島県と香川県の境にある東かがわ市の五名地区で駆除されたものです。

 五名地区は30年以上前からイノシシによる農作物への被害に悩まされてきました。

(農業・林業を営む/西尾和良さん)
「里山を守っていきたい。里山の景色を守りたいっていうのがありまして、その中で里山にイノシシとか、サルとか出てきて」

 2005年、五名地区には駆除したイノシシやシカの処理施設が整備されました。肉は近くの産直カフェなどで販売しています。

 西尾さんは、それまで捨てられていた皮に着目。有効活用しようと、2018年にイノシシの革製品のブランドを立ち上げました。

 今回は井上製作所と協力してイノシシの革を活用した新たな製品を生み出そうとしていました。

(西尾和良さん)
「僕としては椅子になるところ、『傷』を入れた方が面白いと思うんで、この皮を使って今回……」

 この傷はイノシシ同士が争ってできた「けんか傷」です。

(井上製作所/井上理輝 社長)
「傷があるのも僕は好きで、このイノシシはこう頑張って生きてきたんやなっていうのも全部表情に表れていながら、こういうなめしをすることで、より良い形になっていこうってしているのがめっちゃいい」

 ちなみに、椅子の材料にするために持ち込んだアベマキの木は西尾さんが祖父母から引き継いだ、さぬき市大川町南川の土地に自生していたものです。

(西尾和良さん)
「先祖代々、数百年かけて棚田にしてきて、それを何とか維持していきたい、維持するためにはお金を稼がないと維持できないので、そのためにこういう木を切ることによって生活できるようになるので」

 これまであまり活用できていなかった「アベマキ」と「イノシシの皮」。西尾さんたちは2つを組み合わせて新しい価値を生み出そうとしています。

(西尾和良さん)
「昔の人が努力して使えなかったから多分今に残っているので、それを使うっていうのはそれなりの難しさがあると思うんですけど一回作ってみて、どうなっていくか、どういう広がりがあるか、そこを見ていきたい。チャレンジしていきたい」

 椅子の足の部分は、高松市の森本建具店に依頼しました。

 製作には木の形を調整して組み合わせる「組手(くで)」という技法も使います。

(森本建具店 職人/津賀喜男さん)
「(アベマキは)初めてです。加工自体は初めてです。ちょっとくせあるかなっていう。でも木目がきれい、白くて。アクセントになっていいのかな」

(井上製作所/井上理輝 社長)
「県産材を(家具に)使うという試みが今までなかったので」

 これまで家具作りに使われる木材は外国産が主流でした。しかし、2年ほど前世界的な木材不足と価格高騰、いわゆる「ウッドショック」が起きました。

 これをきっかけに香川県でも地元の木材で家具を作るという動きが出てきました。

(井上製作所/井上理輝 社長)
「自分たちが作る家具を県の中でまるっと収めるというのは大変意義があることやなと思ってて」

 アベマキとイノシシの革を持ち込んでから約8カ月……。ようやく「椅子」が完成しました。

 立ったり座ったりしやすいように設計されていて、座面は回るようになっています。張られたイノシシの革は摩擦に強く、丈夫で通気性があるそうです。

(記者リポート)
「じっくり見てみると、ところどころにけんか傷や引っかき傷があり、野生の中で生きてきたイノシシの力強さを感じます」

 完成した椅子は、東かがわ市の五名地区にある産直カフェ「五名ふるさとの家」に持っていきました。ここでは、地域でとれた野菜や米のほか、イノシシやシカの肉を使ったジビエ料理を提供しています。

 この地域でとれたイノシシの皮が椅子になって戻ってきました。

(五名ふるさとの家/店長 飯村大吾さん)
「一貫した流れの中で自分たちがやりがいを持ってやっていける。五名での生活がつながっていってますし、こうやって西尾さんが商品として形にしてくれるところもつながってくる。すごくいい形だと思う」

 完成した椅子は今後は、ふるさと納税の返礼品にしたり一般販売したりすることを検討しているそうです。

(西尾和良さん)
「燃やすために使われていたものがこういう家具になって付加価値が付いてお金になる。それで山が活性化して山がきれいになって里山に人が戻ってきてという循環ができれば一番いいと思いますけど、まずは自分の生活ができることが大事なんですけど。それを頑張っていきたい」

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