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【解説】デマ拡散も…「手術なしで性別変更」家裁が認めた背景とは 専門家「トランス女性は手術しないと…大きな区別・差別が生じている」 岡山

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 岡山県新庄村に住むトランスジェンダーの臼井崇来人さん(50)。手術を受けなくても戸籍上の性別を「女性」から「男性」に変更できるよう岡山家庭裁判所津山支部に申し立て、2月7日に認められました。
 2016年に同様の申し立てをしたときは認められませんでした。今回の判断のポイントは何だったのでしょうか。

2度目の申し立てで認められた「手術なしでの性別変更」

 2月27日、臼井さんは岡山市役所で「女性」から「男性」へと性別が変更された戸籍謄本を受け取りました。

(手術せずに性別を変更/臼井崇来人さん)
「続柄・長男となっています。待ちに待ったという感じで」

 戸籍謄本には「長男」の文字。

 戸籍上の性別変更が認められた臼井さんは、パートナーの女性と結婚したいと語りました。15日、婚姻届を提出します。

 ここまでたどり着くには長い年月がかかりました。

 臼井さんが手術を受けずに戸籍上の性別を変更する申し立てを最初にしたのは2016年。一審、二審ともに退けられ最高裁でも認められませんでした。

(臼井崇来人さん)
「(将来的には)今と全然ちがう状況になっていると思いますし、そのために今回の裁判の判決(決定)が必ず生きてくる」

 流れが変わったのは2023年10月。別の当事者の申し立てに対し、最高裁が「生殖機能をなくすために手術を必要とする特例法の要件は憲法に反して無効」との判断を示しました。

 これを受け、臼井さんは2023年12月、岡山家裁津山支部に2度目の申し立てを行い、変更が認められました。

臼井さん「おお……」

(臼井崇来人さん)
「今は最高裁だったり家庭裁判所だったり、ちゃんと受け止めてくれている後ろ盾があるので、社会は変わったんだ」

臼井さんの2度目の申し立てが認められた背景・課題は?

 これまで、戸籍上の性別を変更するためには「特例法」に定められた5つの要件を満たす必要がありました。(※2004年施行)

 2人以上の医師から「性同一性障害」と診断された人で、①18歳以上 ②結婚していない ③未成年の子がいない ④生殖腺がない、またはその機能を永続的に欠く ⑤変更する性別の性器に似た外観を備える。

 このうち④と⑤の2つの要件については事実上、手術が必要とされます。

 臼井さんの1度目の申し立てについて最高裁は、2019年、「現時点で特例法の要件が違法とまでは言えない」と判断しました。

 一方で、「国民の意識や社会の受け止め方にも変化が生じている」などとして「憲法違反の疑いが生じている」という補足意見を付けました。

 2023年10月、別の当事者の申し立てについて最高裁は、「憲法に反して無効」との判断を初めて示しました。

 具体的には、生殖機能をなくすために手術を必要とすることについて「手術を受けるか、性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」としました。

 臼井さんの2度目の申し立てが認められた背景には、この判断が大きく影響しています。

 今回の判断について専門家は一定の評価をしながらも、依然として課題が残ると指摘します。

(臼井さんの代理人/大山知康 弁護士)
「臼井さんのようなトランスジェンダー男性は、外観を似せる手術をしなくても要件を満たすと認められることが多いが、トランスジェンダー女性は手術をしないと認められないという取り扱いになっていますので、大きな区別、差別が生じている」

 臼井さんの代理人弁護士・大山知康さんは、裁判所が生殖機能をなくす要件のみを違憲とした点が不公平につながると指摘します。

 最高裁は2023年10月、外観を変える要件については高裁に審理を差し戻しました。

 岡山家裁津山支部は、2月7日「特例法全体が無効となるものではない」としました。

 トランスジェンダーに関する医療に詳しい岡山大学の中塚幹也教授は、身体的・金銭的な事情などで手術に踏み切れない当事者の選択肢を広げることが重要だと話します。

(岡山大学学術研究院/中塚幹也 教授)
「手術をしたい、したくないにかかわらず自分の望む性で生きたいというのは皆さん一緒なので、(外観を変える)5号要件に関しても緩和されることは必要ではないかと思います。そこに課題があれば解決していくことが必要」

インターネットでは誹謗中傷をする人や誤った情報を発信する人が…

 性別変更を巡っては別の課題もあります。

 臼井さんのニュースは、インターネットでも多くの関心を集め、2月7日に配信したKSBの記事には2700件を超えるコメントが寄せられました。

 しかし、中には誹謗中傷をする人や誤った情報を発信する人がいます。

(Xより)
「男ですと言ったら男になれる。女ですと言ったら女になれる」

 KSBの記事を引用して旧ツイッター「X」に投稿されたコメントです。13日時点で表示回数は143万回を超えています。

 この投稿に対し、事実の検証などに取り組む非営利組織「日本ファクトチェックセンター」は、「戸籍上の性別を変更するためには特例法の要件を満たす必要がある」として誤りであると指摘しました。

(日本ファクトチェックセンター/古田大輔 編集長)
「『男ですと言ったら男になれる』『女ですと言ったら女になれる』みたいな言説が広がるとトランスジェンダーのヘイトや差別につながることだってあり得る。(投稿や拡散が)本当に事実に基づいているのか。誰かを傷つけるのではないかを考え直してほしい」

 インターネットでのさまざまな意見について、当事者の臼井さんは――。

(臼井崇来人さん)
「いろんな意見があっていいのではないかと思うんです。自分自身もこの問題に向き合うのに人生の年月分かかっているんです。なので、みんな迷ったり混乱したりあると思います。いろんな意見を言ってもいいけど、すでにその問題で一生をかけて人にも言えないぐらい悩んだり苦しんでいる人たちに対して、人格否定の発言やコメントがあると本当にそれはひどいことだと思います。自分は知らないなりに言っているということをもう少し自覚しておいてほしい」

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