シリーズでお伝えしている、岡山県津山市に住む家族の話題です。自閉症の娘との日常をSNSで発信する蓬郷由希絵さんと夫の哲資さん。ユーモアを交えながら子育てに向き合う夫婦の思いは。
とある日の午後。いつも通りの蓬郷家のリビング……かと思いきや。次女・結衣菜さんの様子が、いつもと違う……?
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「(Q.前髪どうしたの?)なんかぁ、切ったりぃ、ちょっとがぁ……ちょっとで切りました。(Q.眉毛は?)眉毛はぁ、そらない方がいいんだけどぉ、切らない方がいいんだったけどぉ、ちょっと終わりました。(Q.やっちゃいましたか!)やっちゃいました」
母・由希絵さんが目を離したすきに、前髪と眉毛を自分で切ってしまったそうで……
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「こうやって、こうよ。(前髪を)持って、こうやって持っとった。アハハって言ってた。アハハじゃねーよ。でも、毎日いろんなことがありすぎるけん、特に驚きもしない……怖いね」
この日の結衣菜さんのノートには……
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「アンパンマンのキャラクターがいっぱい描いてある本があるんよね。そのキャラクターの眉毛をこうやってずっと描いてた。後悔してるなっていうのがすごいよく分かるぐらい、アンパンマンのキャラクターの眉毛を描き続けたけん、途中で笑えてきて」
個性的すぎる「後悔の念」がつづられていました。
結衣菜さん「はえろー、はえろー、はーえーろー♪」
由希絵さん「『まゆげ・はやす・くすり』って調べてる……じゃあそるな」
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「(原因は)これっていうのは分からんけど、思春期もあるし、かわいくするとか、あとはストレスとか。根本を分かってやりたいけど、なかなか本人がそこまでの説明ができない」
結衣菜さんは、重度知的障がいを伴う自閉症。コミュニケーションが苦手で、自分の気持ちを表現できないもどかしさが、思いもよらぬ行動につながることがあります。
由希絵さん「変だね、眉毛」
結衣菜さん「変だよ~、変だ~」
由希絵さん「まゆげ、まゆげ、まゆげ、はえろ、はえろ、はえろ、はえろ、はえろ!生えた?」
結衣菜さん「生えた。……生えてなーい」
由希絵さん「ハハハハ」
由希絵さん「インターネットで『まゆげ、はえる、くすり』って」
哲資さん「調べとったん? ちょっと後悔しとるがん」
1日の終わりに、由希絵さんはその日あった出来事を夫の哲資さんと共有します。
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「夜ごはん中は結衣菜の謎解きに尽きる。『こうやって、こうやったんだけどどう思う?』みたいな」
哲資さん「どうしたの?」
結衣菜さん「眉毛をかわいくした」
哲資さん「そうか、もう切らないでね。母さんに任せようね」
結衣菜さん「はい! ラジャー!」
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「けっこう奇跡的な感じじゃけん、うれしいんよな。会話をしよるっていうのは」
2歳で自閉症と診断され、医師から「一生言葉が出ないかもしれない」と言われた結衣菜さん。当時は意思疎通もままならない状態でした。
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「小さい幸せが多いかもしれん。これができた、これもできたって。だからやっていけるんやで、ニコニコして、キャッキャって笑ってな。しかもちょっとおもしろがって。ええことで」
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「思春期だから結衣菜も本当に大変で、いろんな感情が出たり、怒りだしたりとか、こんなことが起きちゃったんだと1番に言うのは彼で。私もしっかりちゃんと落ち込むことは落ち込むし、ただその時間が短いだけで。だけど時間が短くいられるのも、テッチが聞いてくれたり、『次どうしていく?』みたいなアドバイスをくれたりするからこそ、私は次の一歩が早く出せるんだと思う」
家族の日常をSNSで発信
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん・インスタライブ)
「きのうはただ単に結衣菜が勝手にこじらせて怒っていただけ。テッチの言い方が結衣菜には怒ったみたいに聞こえて『テッチ怒ったね』みたいな感じでプンプンしだして、『家出する』って言って。勝手口のところにずっとおって、1人でぶつぶつ言って。家の中からテッチが『結衣菜入っておいでー』って。じゃけどそれは結衣菜にとっては家出なんよ。家から出とんじゃけん家出じゃが」
由希絵さんたちは、家族の日常を、SNSで毎日発信しています。ユーモアを交えながら子育てに向き合う姿が大きな反響を呼びフォロワーは19万人を超えています。
そんな中で、これまで最も再生された動画が……
結衣菜さん「けんかしないでよ~」
哲資さん「結衣菜、これはな、けんかじゃないんじゃ。レスリングっていうスポーツ」
結衣菜さん「レスリング?」
哲資さん「そう、これはなオリンピックじゃ」
結衣菜さん「レスリング」
哲資さん「そうよ、レスリング」
結衣菜さん「さんはいっ、レスリング。けんかしないで~、やめんか2人とも~」
この動画は1800万回以上再生されました。
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「世の中に一緒のように悩んどるお母さん、お父さんめちゃくちゃおるけん、そこはもう、うちのファミリーを見て元気になってもらえれば。こんなんでええんじゃって思ってもらえたらうれしい。毎日楽しい、毎日毎日楽しいわ。それでこそ蓬郷家じゃし。こうやっておもしろおかしく過ごせとるけん、(由希絵さんには)それは感謝しかない」
妹思いの姉、虹々菜さんも含め、仲の良い蓬郷家。ところが最近、結衣菜さんが虹々菜さんを意識するあまり感情をこじらせているそうで……
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「日常茶飯事じゃ。もうこじれるのが当たり前。虹々菜より先に起きて、虹々菜より先に学校に行きます。虹々菜より先に食事をします。ちょっと面倒くさいもん、正直」
結衣菜さんの「こじらせ」はインタビュー中でも、突然にやってきます。
哲資さん「痛っ!なんで今ひげ引っ張った?」
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「これも多分、虹々菜との話をしゃべったからじゃろうな……」
哲資さん「ひげが抜けちゃう……」
結衣菜さん「うるさい! うるさいわ!」
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「こういうことがあるんよ」
結衣菜さん「怖かった?」
哲資さん「怖かったわ~、結衣菜。あ~怖い。こういうことは、しては……」
結衣菜さん「やだ!」
哲資さん「いけま……」
結衣菜さん「ダメ!」
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「多分本人はすごい本気じゃけど、こっちはもうふざけてしよる」
結衣菜さん「何すんのよ、へんてこ!」
哲資さん「ほら、へんてこって……こんぐらいでええんじゃと思うで。おもしろおかしく。こりゃ! 結衣菜! ごめんね。仲直りしよう」
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「もう面倒くさいなってなるけど、そこを楽しんじゃれってなる」
SNSをきっかけに全国から講演会の依頼
6月8日、玉野市。会場には仮装した由希絵さんの姿が。SNSをきっかけに全国から講演会の依頼が寄せられるようになりました。
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん・講演会)
「私はこの時この子を育てられない、もう絶望のどん底でした。1つのことを習得するまでにはかなり時間がかかります。障がいがあっても、世の中に出て行くそれまでに、当たり前のことが当たり前にできるように生活スキルをこの子に教えていこうと思ったんです」
講演会の間、由希絵さんが集中できるように、哲資さんは結衣菜さんと一緒に過ごします。
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「素敵だと思うで。今まで家族だけでしゃべっていたことをみんなに聞いてもらって、みんなも共感してくれて」
講演会の最後には哲資さんと結衣菜さんも由希絵さんのもとへ……。
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「今も悩んでいるけど、昔よりは分かってきたし、結衣菜のことが、わしも含めて。みんな苦労しとるんかなと思うし、由希絵の話で楽になってもらえたら」
毎日料理にチャレンジ
結衣菜さんは今、由希絵さんのサポートを受けながら、毎日料理にチャレンジしています。
結衣菜さん「手を洗う!」
由希絵さん「素晴らしい! 素晴らしい! できました」
由希絵さん「結衣菜、テッチが見てるで」
哲資さん「ええにおいじゃな~」
おいしそうな八宝菜ができあがりました。
(結衣菜さんの父/蓬郷哲資さん)
「すごいで、本当に。手際よく……」
哲資さん「おいしいわ、本当に」
由希絵さん「もう本当に特性を利用した私たちの勝利。決まったことを決まった時間にする。それが時に面倒くさいと思うこともあるけど、少しずつ将来が見えてきた」
哲資さん「普通の生活がちょっとでもできるようになってほしいな……楽しみじゃな本当に」
由希絵さん「買い物できてこれが作れたらな。自慢の娘じゃな」
哲資さん「食材自分で選んで、『きょうはこれにします』って言ってきたらな。泣き崩れるで」
由希絵さん「拝まにゃいけん」