建築家・丹下健三が設計した旧香川県立体育館を巡り、民間団体が買い取りなどによる再生の意向を表明してから2カ月が経ちました。再生に向けた協議を求める団体と解体を急ぐ県側。「平行線」の状態が続いています。
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長[12日])
「お互いの意見が全く違う。交わるところが、イメージがまだわいていないというか」
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[17日])
「やりきれない気持ちにはなりますよね。話し合いを続けていく意味に対してもね」
民間団体が「買い取りによる再生」を提案
建築家らが設立した「旧香川県立体育館再生委員会」。2025年7月23日、高松市で初めて記者会見を開いた際には香川県側と「対立」する意図を否定していました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「行政に対し、異議の意図があるものではありません」
(旧香川県立体育館再生委員会/上杉昌史 副委員長)
「香川県さんからすればこのタイミングで何を言ってるんだと思われるのは正直、そうだろうなと理解はしております」
再生委員会は、旧県立体育館の建物と敷地を県から買い取るなどして民間の資金でホテルなどに再生することを提案し、知事と県教委に協議を申し入れました。
「事業の主体や計画が明確になっていない」という県側からの指摘を受け、8月5日には、企業5社が実名で出資や参画の意向を表明する書類などを知事に追加で提出。
しかし、県教委は同じ日に「解体を先延ばしにはできない」とする文書を再生委員会に郵送し、その2日後に県が解体工事の業者を決める入札の情報を公表しました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[8月8日])
「資料を届けるはずだった前に(県教委が文書を)出してるんで。そういう意味では、誠意は本当にない中で判断を下したんだなという」
(香川県/池田豊人知事[8月18日])
「お話は聞くスタンスを続けたいと思います。一方で、安全を確保する、それを先延ばしにできないというこのスタンスも持たざるを得ない」
別れる見解…大地震での倒壊の危険性は
県側は、解体を急ぐ理由として2012年に行った耐震診断の結果をもとに大地震が発生した際、建物が倒壊する危険性があることを挙げています。
一方、再生委員会は複数の専門家の意見をもとに、「大地震の際でも建物全体が倒壊する危険は想定されず、再生に向けた協議に応じる時間はある」と主張。
非公開で行われた県と県教委との面談の場で、「県側が耐震診断書を読み違え、危険性を誇張している」と伝えました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「知事が言われる見解の違い、倒壊するという言葉、そこに大きな誤りがあることをきちんと伝えさせてもらいました。(県側の担当者は)聞いてました。明確に向こうから何か意見があったことはほとんどないです。『分からない』『断定はできない』とか」
面談の翌日に記者会見で「反論」
この面談の翌日、教育長と県の営繕課長が記者会見を開いて改めて倒壊の危険性について説明。「耐震診断書の読み違えはない」と反論しました。
記者「再生委員会側の言い方、指摘に関しては当たらないと?」
(香川県営繕課/池田拓真 課長)
「当たらないですね、はい」
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[17日])
「びっくりしました。えーっ!て。あの日、一言もしゃべらなかった人たちが次の日に記者会見で。あのとき分かってたやろって」
再生委員会は、約10億円の解体費用の支出は「違法、不当」だとして差し止めを求める住民監査請求に踏み切りました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[17日])
「対立はしたいわけではないですけど、どうしてもそうされると僕らも表に向かって言わなきゃいけないことが出てくる」
記者「双方の見解をぶつけて確認すればいい話なのに、その場でやらずに双方が会見で主張しているというのが県民からするといつまでたっても平行線のままというふうに思わざるを得ない」
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「十分、先方の主張をお伺いして、組織としてどういう見解なのか返す必要がありますから、きのうの(面談)の段階では答えられなかったという部分はあります、確かに」
記者「公開の場で双方の議論をマスコミも入れる形でやったほうがより伝わる部分もあるかなと思うが」
(香川県/池田豊人 知事)
「公開ということはちょっと、腹蔵なく(=本心を包み隠さず)意見交換するという意味においてはどうなのかなという思いがあります。
ではありますけれど、話し合った内容については公開をすべきだと思います」
専門家は「面談が形だけになっている」と指摘
地方自治に詳しい香川大学の三野靖名誉教授は再生委員会と県側の面談が「形だけになっている」と指摘します。
(香川大学/三野靖 名誉教授)
「表面上は団体とかの意見も聞きましたということを後世に残しておくことによって一定の抗弁ができるという、そういう『状況作りをしている』というとちょっと失礼かもしれませんけど。これって住民とか団体からすると非常に虚しさを感じますよね。何のためにこういう場を設けたんだと」
また、この間、県民の代表である議会の関与があまり見えないことも問題だと話します。
(香川大学/三野靖 名誉教授)
「首長、執行部だけが対応してて、議会はなんか知らぬ存ぜぬみたいなもんだから。もうちょっと議会でも議論を持つとか、団体とか住民の意見を聞くような場を設けてもよかったのかなという気がしますね。議会の存在意義が非常に薄いなと思いますね」
旧県立体育館の閉館から解体の決定まで、香川県議会では議事録が残る本会議や委員会の場で解体か保存・再生かの議論はほとんど行われていません。
また、8月、再生委員会が県に求める対応についてアンケート調査を行いましたが県議40人のうち8割近い31人が回答しませんでした。
19日の文部科学大臣の会見でも、旧香川県立体育館を巡る議論について質問が出ました。
(阿部俊子 文科大臣[19日])
「地元でもさまざまなご意見があるというふうに承知をしておりまして、それらも踏まえながらご議論をいただくなど、丁寧な検討を進めていただきたい」
再生委員会は県教委に対し、3回目となる次回の面談を報道に公開して行うよう申し入れていますが、県教委は検討中としています。
(香川大学/三野靖 名誉教授)
「全てが納得する結論を導き出すことは難しいんですけど、そこに至る過程をちゃんと見てもらって参加してもらえれば、納得はしてもらえると思います。多少の時間や労力がかかっても、その方が結果的に行政に対する信頼性とか、そういうものにつながるんじゃないかなという気がしますね」
(2025年9月24日放送「News Park KSB」より)