伝統的な日本の酒造りを支えようという試みです。杜氏が長年培ってきた酒造りの「勘」をサポートするAIの開発を、岡山市の醸造機械メーカーが進めています。
日本人になじみの深い醤油・みそ・日本酒。これらは全て、麹菌という微生物を利用してつくられる日本伝統の醸造食品です。
この醸造食品をつくる機械を製造しているのが、岡山市北区にある創業90年の会社フジワラテクノアートです。
国内外で約60の特許を持っていて、多くの酒蔵でフジワラテクノアートが作った酒造りの装置が使われています。
現在、フジワラテクノアートが取り組んでいるのが、酒造りにとって重要な麹づくりの装置にAIを導入することです。
(フジワラテクノアート/入江彰一さん)
「大きいテーマの中に、開発目的として次世代醸造プラントシステムの開発というものがあって、杜氏さんの仕事をサポートできるAIシステムにしたい」
従来、麹づくりは杜氏の長年の「勘」に支えられていました。蒸した米に麹菌の胞子を振りかけ、温度や水分量を管理しながら菌を繁殖させる作業です。季節や気候によっても細やかな調整が必要になるなど、杜氏には判断力が求められます。
一方で杜氏の数は年々減少しています。
日本酒造杜氏組合連合会によりますと、所属する杜氏の数は1965年に約3700人でしたが、2021年には700人ほどになっています。
麹づくりにAIを導入しようというフジワラテクノアートの試みは、2020年に始まりました。
最初は温度や米の水分量の条件を変え200以上のパターンで麹をつくり、AIに出来を覚えさせました。するとAIは、独自のアルゴリズムで麹づくりについて細かく提示できるようになります。
(フジワラテクノアート/入江彰一さん)
「杜氏さんが年々減ってきているということで、技術伝承を使っていただきたいと考えている」
1603年創業の司牡丹酒造です。年間に1升瓶40万本分の日本酒を造っています。
ここでは、フジワラテクノアートのAIを搭載した装置が麹づくりの現場で活用できるかどうかテストしています。
(フジワラテクノアート/入江彰一さん)
「こういう麹をつりたいという希望を、例えば数字で入力すると、それを叶えるための品温(温度)経過をAIが予測して、杜氏さんに提示するシステムを考えている」
こちらの装置ではAIが時間ごとの温度管理を細かく示しています。ただ、実際の製造過程では研究室とは微妙な食い違いがあり、現在、AIのアルゴリズムを微修正をすることで精度を高めている段階です。
フジワラテクノアートでは2023年中にもこの装置の商品化を見込んでいるということです。
AIを活用した技術について、長年酒づくりを担ってきた杜氏はどう思っているのでしょうか。
(司牡丹酒造/浅野徹 杜氏)
「いいことだと思う。それによって大きな失敗はない可能性がある。年間に、少ないものは1本しか仕込まないものもある。じゃあ10回経験しようと思うと10年掛かる。それの手助けにはAIはなる」
一方で浅野さんは、日本酒はその土地の風土や素材を生かした繊細なもので、データだけでは「うまい酒」は造れないと話します。
(司牡丹酒造/浅野徹 杜氏)
「嗜好品でもあるので、嗜好品なんて機械がつくったら何の面白みもない、将棋もそう。AIが指した将棋は見ても仕方ない。あれは藤井さんが指すから面白い。AIと藤井さんが指すから面白いものになる。(AIは)あくまでも道具で、どこまでうまく使えるかが人間の良さと思う」