ハンセン病の歴史を伝え、差別や偏見の解消に役立ててもらおうと、瀬戸内市の国立ハンセン病療養所「長島愛生園」が入所者の体験を元にした教材を作りました。岡山県内の小中学校などで活用されます。
7ページにつづられた、「なかおしんじ物語」。
主人公の中尾伸治さんは、中学生の頃に長島愛生園に入所しました。
ハンセン病は感染力が非常に弱い病気ですが、中尾さんは長島愛生園に強制隔離されました。のちに国は隔離政策を誤りだったと認めましたが、当時は、いわれのない差別や偏見が入所者だけでなく家族にも及んでいました。
中尾さんは仲がよかった兄に、「故郷に帰らないでくれ」と泣きながら告げられ、その後、生きて再会することはありませんでした。
この教材を手がけたのは、3月まで長島愛生園の歴史館に勤めていた、学芸員の木下浩さんです。
(長島愛生園 学芸員[取材当時]/木下浩さん)
「新型コロナが流行して、感染症による差別が本当に問題になりました。やっぱりそういったことをなくしていくためにも、何か私たちができないか」
教員の経験もある木下さんは、学校の授業で活用しやすい文章やボリュームなどを考えながら制作したそうです。また、教員が理解を深められるよう、解説文を付けたものも用意しました。
長島愛生園では、見学などを受け入れていますが、コロナ禍前の2019年、県内の小中学校からの訪問は20校にとどまっています。
(長島愛生園 学芸員[取材当時]/木下浩さん)
「私たちはいろんなところで啓発活動として、学校の皆さんに来てもらって話をしたり、私たちが学校に行って話をしたりすることがあります。もちろんそういったこともとても大事で、皆さんとても熱心に聞いてくれるんですけど、もっともっと広げていこうと思った時に、学校の先生自身が教材を持って子どもたちに授業をしてくれると先生たちの間にも広がっていくし、子どもたちにも広がっていく」
木下さんは3月、「なかおしんじ物語」を県や市の教育委員会に届けました。県内の小中学校などから要望があれば、データを配布してもらうことにしています。
(岡山県教育庁 人権教育・生徒指導課の担当)
「(教員から)『ハンセン病問題に取り組みたいけど資料がないんです、何かありませんか?』という問い合わせは今までも実際にありました。ですので、そういう時にこういう教材を紹介させていただいて、活用していただければいいなと思います」
(岡山県教育庁 人権教育・生徒指導課[当時]/高山公彦 課長)
「まずは県内広く先生方に知っていただけるように、我々も紹介等、機会をとらえてやっていけたらと思います」
物語の主人公、中尾伸治さんは現在88歳。入所者自治会の会長として、差別や偏見の解消に取り組んでいます。
(物語のモデルになった長島愛生園入所者/中尾信治さん)
「親や兄弟と別れなくてはいけない、そういうことがあったこと、病気が治ったんだと言っても後遺症が残っていたら『手が曲がっている』とか『口が曲がっている』とか今もそうであるということで、偏見・差別が生まれるんだったら、それをなくす方法を考えてほしい」
「なかおしんじ物語」は、長島愛生園のホームページでも公開していて、誰でも読むことができます。
(長島愛生園 学芸員[取材当時]/木下浩さん)
「今までは経験された方が実際に自分の生の声で語ってくれました。でも、それはこれから難しくなってくる。入所者の方の高齢化が進む、語り部の方の減少ということで、どういうふうに伝えていくかというのは、本当にこれから考えていかないといけない」