コロナ禍の中で迎えた、2022年の瀬戸内国際芸術祭。国立ハンセン病療養所がある高松市の大島では、3年ぶりに島の外から多くの人を受け入れています。ハンセン病の記憶をアートで伝え続ける、大島の「いま」を取材しました。
8月15日。高松港では、大島行きの船の整理券を求めて並ぶ、来場者の姿がありました。密集を避けるため、一度に船に乗れるのは、50人までです。
島全体が国立ハンセン病療養所となっている、高松市の大島。3年前には50人以上いた大島青松園の入所者は現在、39人。平均年齢は85.9歳と、高齢化が進んでいます。
新型コロナの感染リスクに配慮して、夏会期は他の島より10日遅くスタートしました。
(大島青松園 入所者/野村宏さん[86])
「船が小さいから、思うようにみんなを受け入れることはできない。制限しているんですけど、それでも来てもらって、園内を見てもらったらいいと思うので。(ハンセン病の)差別と偏見のために苦しめられてきた私たちのことをですね、少しでも分かってもらえたらありがたい」
入所者が後世へ伝えたいと願うハンセン病の記憶。その思いに応えるアートが、新たに公開されています。
かつて使われていた温室に入所者が遺した「声」を集めた、やさしい美術プロジェクトの作品「声の楔(くさび)」。潮風になびくカーテンには、入所者が書いた日記の文字が焼き付けられています。
そして、カセットテープからは、歌人「斎木創」として活動していた、入所者が詠んだ歌が流れています。
(やさしい美術プロジェクト/高橋伸行さん)
「ハンセン病の後遺症で気道を切開して、ほとんど出ない声をふり絞って歌を詠んでいる。(日記の)筆の運びから呼吸を感じてもらう。建物全体から発せられる『声』というのもあると思うんですね。いろんな声がこの中にはあって、それを聞くだけでもなく、目で見るだけでもなく、全身で感じ取ってもらう」
(来場者は―)
「歴史的な昔の話があって、作家さんがそれをどう受け取ってどう伝えようとしたのかというのを見ることができて、ただ史跡を巡るだけではなくてアートを通して感じることができたのは、すごくいい経験になった」
瀬戸芸の夏会期は9月4日まで、大島では、ハンセン病の記憶を伝える12の作品を公開しています。