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【解説】牛窓に個性的な「1棟貸し宿泊施設」が増加 理由は旅行スタイルの変化と法改正 岡山・瀬戸内市

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 岡山県瀬戸内市の牛窓地区で“1棟貸し”の宿が次々と誕生しています。コロナ禍を経て変化した旅行スタイルや法改正を背景に、個性的な宿が増え新たな観光資源としても注目されています。増加の理由を探りました。

USHIMADOヴィラ

 2023年12月にオープンした「USHIMADO ヴィラ」。2階のバルコニーから美しい瀬戸内海を一望できます。

 この日は、5人家族が訪れ、宿のコンロを借りてバーベキューを楽しんでいました。

(訪れた人は―)
「(Q.お肉の味は?)おいしい」
「なかなかこういう機会でゆっくりできることがないので、休日に気持ちよく過ごすことができる」

 1棟貸しの宿とは、文字通り1棟をまるごと貸し出すタイプの宿です。他の宿泊客に気兼ねせず大人数で過ごせるなどの特徴があります。

 オーナーによりますと、こちらの建物は17年ほど前「別荘」として建てられました。その後、売却の話があった際今のオーナーが訪れ、ロケーションに一目惚れ。2023年に約2900万円で購入しました。

(USHIMADOヴィラ オーナー/万代さん夫婦)
「冷蔵庫やソファを置いていっていただいたのでやりやすかった。非日常を味わえるのが1番。海を見ながらバーベキューをしたり、普段の生活では味わえないちょっと特別なステイが楽しめると思う」

 料金設定は近隣の「リゾートホテル」の「素泊まり」料金を参考にしたそうです。4人までの利用で1泊7万円から。5人目以降は1人当たり5000円かかります。

南風テラス

 続いては、牛窓港からフェリーで5分、前島にある1棟貸しの宿です。

 前島港に到着して車で5分ほど走ったところにあるのが、2024年3月にオープンした1棟貸しの宿「南風テラス」です。

 寝室、浴室、その先に海が広がるという、かなり大胆な間取り。島の宿で、湯に浸かって眺める瀬戸内海と小豆島!

 宿のオーナーはここでしかできない「特別な体験」を付加価値として提供したいとしています。

 部屋の隅々にもこだわりが。茶室なども手掛ける大工が数寄屋建築の技術を駆使して建てました。木目が美しいクリ、年数が経つにつれ褐色に変化するヤマグワなど、厳選した木材を使っています。

(南風テラス オーナー/寺田祐太佳さん)
「特にここは静かな島にあるので、来た人にゆっくりくつろいで、そういう宿になりたい」

 朝食と夕食が付いたプランだと、2人で1泊4万9000円からです。

アレーズド・ヴィラSETOUCHI

 1棟貸しの宿には、元住宅だった建物をリノベーションしたタイプもあります。2024年夏にオープンした「アレーズド・ヴィラSETOUCHI」。室内には大型のキッチンもあります。

 部屋には前の住人がコレクションした絵画も。かつての住人の名残が宿の個性になっています。

 高級志向の客に訴求しようと敷地内にプライベートサウナも設置。また、ペット専用のスペースも設けています。

 和と洋合わせて3つの寝室があり、最大10人が宿泊できます。料金は6人までの利用で5万2800円からです。

 個性的な宿が多いと言われているこれら1棟貸しスタイルの宿。その理由についてホテル評論家の瀧澤信秋さんはー

(ホテル評論家/瀧澤信秋さん)
「一般のホテル、いわゆる箱型の建物のホテルというのは基本的には別にオーナーがいる。それぞれのオーナーが所有をしていて、ホテルの専門の運営会社が運営を受託してやっていく。1棟貸しの宿泊施設というのはオーナーが自らやっているケースが非常に多い。そこで個性が出やすく付加価値の高まっている1棟貸しの宿泊施設が増えているということにつながっていくと思います」

増加の要因は「旅行スタイルの変化」と「法改正」

 岡山県のまとめによりますと、2022年4月から2025年3月末までの3年間で牛窓地区の19件の施設に新たに旅館業の許可が出ていて、そのうち14の施設が1棟貸しのスタイルです。

 ホテル評論家の瀧澤信秋さんによりますと、「1棟貸し」の宿は全国的にも増加傾向で、主な要因を2つ挙げています。

 1つ目が2018年の旅館業法の改正です。ホテルで10室以上、旅館で5室以上となっていた最低客室数を廃止し、1室からでも営業が可能になりました。また、出入りを監視できるビデオカメラの設置などを条件にフロントを設置しないことが認められ、宿泊業に参入しやすくなりました。

 2つ目は旅行スタイルの変化です。かつて、大きな市場があった団体旅行は、2010年ごろからネットで予約する個人旅行にシフト。さらにコロナ禍で人との接触を避け親しい人と、旅先で過ごすスタイルが定着していったということです。

 瀧澤さんは、牛窓地区はマリンレジャーも楽しめ、観光地としての魅力が高く、1棟貸しの宿の増加につながっていると見ています。

観光コンテンツの整備も進む

 そして、宿の増加を追い風に、牛窓地区では観光コンテンツの整備が進んでいます。

(瀬戸内市観光協会/林孝康 事務局長)
「個人やグループ、そういった単位でそれなりの対価を払って満喫していただくちょっと豪華、贅沢な旅行を体験してもらうための受け入れ体制づくりを進めている」

 瀬戸内市観光協会はカヤック体験や、スナメリのウォッチング、模造刀での試し切りなど体験型のコンテンツをPRする動画を作成。さらに体験と宿泊をセットにしたプラン作りを進めています。

(瀬戸内市観光協会/林孝康 事務局長)
「しっかりとマネタイズできるよう、今年はそれを万博の会場で広く売り込んで地域の消費活動につなげていけるよう目指したい」

 瀬戸内市の牛窓地区や長船地区は2024年6月、農林水産省がインバウンドの受け入れを後押しする重点地域に選ばれています。「1棟貸し」の宿が地域を元気にする起爆剤になればいいなと思います。

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