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【特集】「怪獣並みの大型新人」初単行本が話題…高松在住の新鋭漫画家・サイトウマドさんの魅力は

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 高松市在住の漫画家の初めての単行本が4月、発売されました。SNSを中心に「怪獣並みの大型新人出現」などと話題を集め、発売1カ月足らずで重版も決定。地方で描く漫画の魅力に迫ります。

デビュー作では異例 発売1カ月足らずで重版に

 KADOKAWAの月刊コミックビームで連載された「怪獣を解剖する」上・下巻と、読み切りなど3作品を収めた短編集「解剖、幽霊、密室」。4月11日、3巻同時に発売されました。

 「怪獣を解剖する」の主人公は怪獣学者の本多昭。恩師からの依頼を受けて大豆島という島を訪れ、超大型怪獣の死骸の解剖調査にあたります。

 11年前、東京に大災害をもたらして行方不明になっていた〝トウキョウ〟と呼ばれる怪獣のもので、実は彼女自身も被災者……。

 研究者、特科機動隊、派遣作業員らがときに衝突しながらもそれぞれの仕事に向き合います。

 単行本の発売以来、SNSや新聞の書評などで高い評価が集まり、デビュー作としては異例となる1カ月足らずでの重版が決まりました。

「説教臭さのないエンタメたりえているのは、語り口の巧みさとキャラの魅力による。まさに怪獣並みの大型新人の出現に震撼する」
(マンガ解説者・南信長さん/朝日新聞 5月3日付読書欄)

「判定バーの遥か斜め上を軽やかに飛び越えていった。『シン・ゴジラ』で怪獣生態学に魅了されたみんなたち!傑作が来たぞ!!!」
(編集者・たらればさん)

 高松市の本屋ルヌガンガでは発売日の4月11日に一挙150冊を仕入れ、レジ横にコーナーを特設。売れ行きが好調のため、さらに追加注文し、これまでに約330冊を入荷しました。

(本屋ルヌガンガ/中村涼子さん)
「SNSの効果等で、初めて知って買いに来られるとか、少し年齢の上の方たちは久々に紙のコミックを何十年ぶりかに買うという方とか(がいる)」

 作者は高松市在住のサイトウマドさん(41)です。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「こんなに積み上がってるのを見ること、まずないですよね。めちゃめちゃ感慨深いですね」

作品の魅力を支える読書メモ

 作品は、SF的な設定の中に、エネルギーや環境問題、被災地の風評被害、また、男性ばかりの職場での女性の働きづらさなど、さまざまな要素が盛り込まれています。

 SNSでの反響を見ると、そのリアリティや作者のインプット量、それを独創的なストーリーに仕立てる力量に同業の漫画家や作家らも舌を巻いています。その源は、マドさんの豊富な読書量にありました。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「読んだ本で、自分が気になるトピックとかを書き写すということをしています」

 大学生の頃から20年近く続けている読書メモ。民俗学や社会学を中心に海洋生物や微生物などにも興味があり、それが今回の作品にも生かされています。

 2015年に夫婦で東京から高松市に移住したマドさん。夫が営む古本店も本との出合いの場になっています。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「買い取りで入ってきた本で『これ面白そうだよ』って(夫に)教えてもらったりとかで出合うことはありますね」

「敷居が低くなった」デジタル時代の作画とは

 日常の移動は徒歩がほとんど。高松のコンパクトで暮らしやすいところが気に入っているといいます。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「かっこいいなとか、ここいいなと思ったらなるべく写真には撮るようにしていて、すぐじゃないけどいつか使えたらいいなと思って撮ってますね」

 マドさんの漫画には、地元・香川の風景が多く登場します。高松市の商店街や高松港のフェリー乗り場など。地名や固有名詞は変えていますが、普段から撮りためた画像を活用しています。

 「漫画といえば、紙にペン」……というのは、かつての話。いまやデジタルでの作画が主流になっています。

 物語の終盤、「高松」ではなく「高岡港」に怪獣が上陸したシーンは……。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「写真があって、トレース(敷き写し)してベタ(黒く塗りつぶし)を入れて。グレーのトーンで空を……」

 これは取材のためにプロセスを再現してもらったもので、実際はこの1ページを完成させるのに丸一日かかったそうです。

 それでも、技術の進歩によりアシスタントに頼らず1人でできることが増えています。

 例えば、作中に登場するヘリコプターは……。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「素材があって。こういうのがありまして、すごいでしょ」

 漫画用の背景や機械などの3D素材を売り買いできるサイトも活用しています。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「本当に漫画を描く敷居が低くなったとは思いますね。こういうので描けるし、ネットですぐに見てもらえるしっていう感じが」

新人賞受賞を機に仕事を辞め、漫画家一本に

 10代の頃は漫画家に憧れていたものの、大学卒業後、絵や漫画から離れていたマドさん。2018年ごろ、たまたま手にしたiPadで漫画を描くようになり、WEBで公開していたところ編集者の目に留まりました。

 そして2021年11月、編集者の勧めで応募した講談社の新人賞(モーニング月例賞)で「奨励賞」を受賞。それを機に、当時就いていたデザインの仕事を辞めました。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「賞を獲ったら漫画家一本でやりたいなっていうのがありました。なんかちょっと『覚悟を決めたい』みたいなのがあって」

 2023年1月に月刊コミックビームの読み切りで漫画家デビュー。2024年6号月から10回にわたり「怪獣を解剖する」を連載しました。

サイン会に多くのファン…地方で描く強み

 4月20日、単行本の刊行を記念して開かれたサイン会。地元・香川だけでなく、千葉や大阪などからもファンが駆けつけました。

(千葉から)
「絵柄とかストーリーとかもライトな感じでサクッと読めるんですけど、その後に結構、反芻していろいろ考えさせられる」
(連載中から読んでいた高松の人)
「豊島とか小豆島みたいな島も名前はちょっと違っても出てくるんですけど、ああいう島の風景とかが出てくるっていうのも地元のファンとしてはなじみがあってうれしいなと」

 サイン会には、2025年の手塚治虫文化賞の短編賞を受賞した広島県在住のギャグ漫画家、榎本俊二さんの姿も。

 榎本さんは「怪獣を解剖する」と同時発売された短編集の帯に推薦文を寄せています。

(広島県在住の漫画家/榎本俊二さん)
「最近の若い漫画家さんの中では突出した才能の持ち主だと思ってます。地方ならではのモノの見方とかがかなりあるような気がするので、サイトウさんも、こっちで高松で描かれてるということがプラスになっているような印象を受けますね」

 雑誌での連載中は読者からの反応をほとんど感じなかったというマドさんですが、この日は約30人から直接、熱い声援を受け取りました。

(高松市在住の漫画家/サイトウマドさん)
「もう本当にうれしいですとしか言えないくらいうれしいです。漫画家で居続けるというのを目標に、また面白い漫画を描くっていうのを目標でやっていきたいです。(Q.どんな漫画家でいたい?)面白いからこの人の漫画を買おうと思ってもらえたら一番うれしいですね」

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