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【特集】なぜ撤去?子育て世帯に人気の交流スペース 「高齢者が使いにくい」という声も… 香川・ことなみ未来館

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 廃校になった中学校を活用した香川県まんのう町の交流施設「ことなみ未来館」。子ども向けのおもちゃや漫画などを置いたスペースには、子育て世帯を中心に多くの人が訪れています。しかし、これまで指定管理者に委託していた施設の運営を4月から町が行うことになり、今ある設備はほぼ撤去されることに……。町外からも注目を集める人気の施設でいったい何があったのか? 取材しました。

土日祝日には親子連れでにぎわう「談話室」

 香川県まんのう町の琴南地域活性化センター「ことなみ未来館」。廃校になった中学校の校舎を活用し、2021年5月にオープンしました。

 中でも人気なのが……1階の旧職員室をリノベーションした「談話室」。町民、町外の人問わず誰でも無料で利用でき、土日祝日には、大勢の親子連れが訪れています。

(4歳男児の母親)
「ここは、来たら必ず、小さい子から大人から地域の小学生とかもいらっしゃって、(息子は)ここに来ると、私から離れて自由に遊んでます」
Q.その間お母さん方はどんな感じで過ごされてる?
(4歳女児の母親)
「他で本を読んだりして。家だったらワンオペで、私が相手しないと成り立たないんですけど、ここ来たらもうお兄さん、お姉さんのところに自分で行くしその間はつかの間、お茶飲んだり話したりとか」

 しかし、これまで施設の管理運営を行っていた「一般社団法人ことなミライ」の指定管理期間が3月末で満了となり、4月から「町営」になることが決まりました。

(記者リポート)
「現在43歳の私にとっては非常に懐かしいファミコン。そしてちょっと上の世代になるんですが、インベーダーゲーム。さらには、子どもたちに人気の最新コミックまで。実はこれら、館長らが私物を持ち込んでいたため、3月いっぱいで撤去しなければなりません」

 人気のスペースなのに、いったいなぜなのでしょうか?

(一般社団法人 ことなミライ/木村年秀 代表理事)
「ここの施設におもちゃがたくさんあって、高齢者が使いづらい。物があふれているということの苦情が多かったと思いますけれども」

「スピード感」でリピーターを獲得

  「ことなみ未来館」の館長を務めるのは、琴南生まれ、琴南育ちの映像クリエイターで、一般社団法人ことなミライの理事、幡多正樹さん(36)です。

(ことなみ未来館/幡多正樹 館長)
「元々高齢者向けのサービスかなと思ってたんです、オープンした当初は。でも、そういう人があんまり来てくれなくて、お孫さんを連れたおばあちゃんが来てくれたんですね。『家でちょっと見ていて、ちょっと持て余したけど、こういうところがあって助かるわ』ということで来られて、『あ、そういうニーズがあるのか』というので、まずこういうおままごとセットとかをちょっと増やしていったわけですよ。そうしたら、そういうのを聞きつけた近隣のお母さんたちが親子連れで来られて、それで徐々に充実して」

 ことなみ未来館の談話室は、利用者の要望を聞きながら、おもちゃなどを次々に充実させ、リピーターを獲得してきました。

 最初は館長の幡多さんが趣味で置いていた漫画も、利用する子どもたちから「これを置いてほしい」というリクエストを受けて、すぐに自腹で買いそろえたものも。この「スピード感」は、民間の指定管理者ならではで、自治体が運営する施設ではなかなかこうはいきません。

(ことなみ未来館/幡多正樹 館長)
「(自治体の運営だと)仮に予算取れますとなったとしても、たぶん下手したら半年ぐらいかかっちゃうスピード感だと思っているんですよ。僕の場合だと『買って』と言われたら、読んでみようって、1週間後には本棚に置いてるくらいなんですよ」

 オープン初年度は新型コロナの影響で長期休館もありましたが、最近では町内外から週に100人ほどが訪れています。(3月26日までに累計5659人来館)

 過疎地域の「成功事例」として、町外から議員や子育て支援団体の視察もあるほど。

指定管理が事実上“打ち切り” 4月から町営に

 しかし、2022年11月……。

(一般社団法人 ことなミライ/木村年秀 代表理事)
「この施設は来年(2023年)度から私たちの指定管理はなくなりますと。町が運営することになりましたというような報告を受けました。これだけ頑張ってきたのに、何かちょっと寂しいなという思いは強く思いました」

 指定管理期間が切れる3月をもって、更新はしないという、事実上の「打ち切り」。

 4月からは町が施設の管理運営を行い、これまで、木・土・日(+祝日)の週3日だった開館日を火曜を除く週6日に。

 談話室のおもちゃや漫画などは、指定管理業務ではなく、ことなミライが「自主事業」として置いていたもののため、全て撤去するよう求めました。

 まんのう町は、指定管理を継続しなかったのは「総合的な判断」としていますが、理由の一つにはこんな声がありました。

「談話室を高齢者が使いにくい」

(まんのう町 地域振興課/松下信重 課長)
「苦情ではなくて要望というか。子どもたちがそこで遊び回る中で、例えば高齢者なんかがそこでゆっくり話をしたいなといった時に、ちょっと入りにくいよねというふうな声はちょっと聞いています」

(一般社団法人 ことなミライ/木村年秀 代表理事)
「それはその都度に役場の方にはお答えはしてきてました。私ども法人の若い人たちが(要望を)聞いてちゃんとニーズに応えるように準備をしている。決して無駄なものではないと」

 ことなみ未来館があるまんのう町琴南地区の人口は3月1日現在1926人。このうち、65歳以上の人の割合、高齢化率は52.2%と、香川県全体の31.8%を大きく上回ります。

 2016年に琴南中学校が閉校となった後、その跡地を活用して地域課題の解決を図る住民組織「ことなみ未来会議」が発足し、高齢者、スポーツ、文化活動、子育ての4つの部会がそれぞれ活動してきました。

 そして、未来館の開館にあたり、高齢者部会のメンバーだった木村さんが代表理事となって「一般社団法人ことなミライ」を設立し施設全体と談話室の管理運営を担当。

 子育て部会が活動を休止して、農業部会が加わった4つの部会が、それぞれの活動拠点として未来館を利用するほか、外部団体の「ことなみつながる森」が木育広場(もりのこ広場)と「いとのこ教室」を、「NPO法人みんなでつくる自然史博物館・香川」が自然史博物館をそれぞれ運営しています。

 取材を進めると、未来館を拠点とする部会と、ことなミライとの間に、「溝」が生じたことも指定管理が継続されなかった要因のようです。

(一般社団法人 ことなミライ/木村年秀 代表理事)
「調整のための会議みたいなのはありましたけれども、なかなかそこでは本音は言わないので。『直接言ってくださいよ』というふうにお話をしても、結局のところ、『私たち、ここに何か不満があるということになったときには、やはり町の、行政の方に言っていく』ということで、私たちもそれに対して、やはりあまり快く思わないということで、ますます関係性がよくなっていかないということもあったのかと思います」

町からの提案「別の部屋なら貸し出す」

 まんのう町はことなミライに対し、談話室で行っていた自主事業を継続するのであれば、館内の別の部屋を貸し出すと申し出ました。

 しかし、談話室は、入り口すぐのところにあり、おむつ替えシートを備えた多目的トイレにも近いのに対し、貸し出しを提案されたのは2階の一番奥にある「元美術室」。

 ことなミライは「ここでは親子連れにこれまで通り使ってもらえない」と、町の提案を受け入れませんでした。

(記者リポート)
「全国的に少子化対策に力を入れる流れの中、町外からも注目されていた子育て世帯向けの施設が事実上なくなってしまうという今回の事態。まんのう町が地域住民たちの調整にリーダーシップを発揮できたのか正直疑問が残ります」

Q.もうちょっとうまくやれなかったのかなと、すごく感じるんですが。コミュニケーションの面で町が間に入って調整するとかいうことは?
(まんのう町 地域振興課/松下信重 課長)
「町の方もそういった中でそういった提案(元美術室の貸し出し)、提案といいますかそういうふうにできんかなというふうなお話はさせていただいたんですが、(ことなミライ側は)やはり談話室がいいということで……」

談話室が高齢者でいっぱいになる日も

 「高齢者が入りづらい」という声がある談話室ですが、高齢者でいっぱいになる日もあります。ことなミライは自主事業として、高齢者向けの「買い物ツアー」を行っています。

(買い物ツアーの利用者[80])
「楽しみで仕方がないの。免許返納しちゃったから、こんな山奥じゃ足がないとどこにも行かれないでしょ。だから月に2回なんだけど連れていただけるの、本当にありがたいです」

 この日は80歳から96歳までの4人が参加しました。

(車内での様子)
「あと1週間したら咲くやろなぁ。ここの桜はきれいなんよ」

 月に1回はマイクロバスに大人数を乗せ、大型スーパーに。あと3回は、数人ずつで買い物と食事などに行きます。

 まず訪れたのは、綾川町にある石窯で焼く自家製酵母のパン屋さんです。

(パン屋さんでの様子)
「ベーコンチーズ、抹茶……くるみあん、おいしかったよ。こうやって切って食べた」

 買い物ツアーで利用者からお金をとると、道路運送法が禁じるいわゆる「白タク」行為にあたるため、無償で行っていて、人件費や燃料代は、ことなミライが行っている講座やイベントなどの自主事業で穴埋めしていました。

(ことなみ未来館スタッフ[歯科衛生士]/丸岡三紗さん)
「すごくお年寄りの生きがいになってると思ってて、できるだけ続けていけるような方向で、なんとか自助努力で工夫していかないといけないなと思っています」

利用者たちが指定管理継続を求め署名を提出

 まんのう町にはかつて児童館が3つありましたが、建物の耐震性に問題があるとして休館。2022年6月、利用者が少ないことを理由に改修はせず、全ての児童館を廃止にすることを決めました。

 ことなみ未来館の利用者たちは「子どもの居場所を守ってほしい」と、指定管理者の継続を求める署名を集め、2月、町内外の1142人分を栗田隆義町長に提出しました。

 しかし、町は「談話室の子ども向け設備はことなミライの自主事業」だと回答し、栗田町長が談話室を訪れ、利用者の声を聞いてほしいという要望も聞き入れませんでした。

(利用者代表として署名を提出/松原順子さん)
「利用者がどれだけ喜んでいるかというような評価を、現場に来て、現場を見て現場で声を聞いて、そういうのも含めて決めていただきたいなというふうに思います」

(利用者代表として署名を提出/宮地徹平さん)
「どこかで掛け違い、ボタンの掛け違いがあったんでしょうけど、指定管理者側と町、役場側とで、いろいろあったんだとは思うんですけど、そのいろいろを、利用している人に持ち込んでほしくはないです。利用している人を第一に考えた決定をしてほしかったですね」

4月以降、子どもたちの居場所は?

 まんのう町は子どもたちの活動の場として、現在、土曜だけ開いているもりのこ広場を、新年度からは日曜も開くことや、現在休止している「子育て部会」の活動再開を呼び掛けるとしています。

Q.4月以降、町営になった時に、どうやって、また子どもとか子育て世代が集まってくる施設にしていこうと思われてますか?
(まんのう町 地域振興課/松下信重 課長)
「この活性化センター(ことなみ未来館)自体が、子どもだけじゃなくて、地域の中にはいろいろな課題がある中でやっているので、もういろいろな形の中で、今活動している部会と協力しながらやっていきたいというふうには思っています」

 現在の形の談話室が利用できるのは3月30日(木)が最後。ことなミライは「子どもたちの居場所」をどこか別の場所で作れないか、今後検討したいとしています。

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